岩波文庫<br> 黴

岩波文庫

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  • サイズ 文庫判/ページ数 222p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784003102244
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

出版社内容情報

「黴」は秋声の3部作「あらくれ」「足迹」「爛」などとともに彼の代表作であり,自然主義文学の金字塔である.理想も夢もない笹村という一文学者の些細な人生の断片をひとつひとつ何の感情も示さず伝えていくこの作品ほど秋声自身夢を殺し,主観の流露を捨て,徹底的な客観描写に終始した作品はない.

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

michel

18
★4.3。これを"退屈な私小説"と読む方もいるだろうな。笹村は図らずも、お銀と籍を入れることになった。癇症の笹村は、お銀の過去をつど探る趣味がある。そんな夫の悪趣味に全く興味もないお銀には、笹村が幾ら期待して探れども彼が面白がるような昔の垢が出てこない。2人はふと出来てしまった"家庭"を巡り、何度も揉める。お銀が家庭を清めようとすればするほど、笹村はそこに長く留まっていられない。だが、どんなか抗おうとも、笹村の人生は一巡してみれば、白紙のままの原稿を前に何ともなしに座っているだけの自分でしかなかった。2019/10/14

しゅん

10
同棲、妊娠、恩師の死にぶちあたりながら為すすべもなく流されるように生きる作家、笹村の生活をひたすら淡々と描いていく秋聲スタイル。体に染み込むような倦怠の感覚を「懈さ」や「萎え」という言葉に落とし込み、タイトルはこれでもかというくらい即物的に。年中ケンカしている笹村とお銀だが、いつの間にか険悪さの消えているあたりが微笑ましい。自分もこういう風に衰弱と微笑を繰り返しながら老けていくんだろうか、と読みながら自問自答した。さすがの力作ですが、私小説だとしたらこの書き振りはあまりに妻に対して残酷すぎやしないか。2016/11/28

梅村

6
『黴』という「何とも……」なタイトルですが、しかし一読するとこれがまた何だか妙にしっくりきます。何とはなしに同棲していて、何とはなしに子供も授かってしまって、捨て去って別れる事もできず、かといって一心に愛する事もできず……、大きな起伏も無く描かれるどこまでもリアルでありのままな夫婦生活の描写を、退屈な物語と見るか、私小説・自然主義文学の真骨頂と見るかは人それぞれかなと思います。個人的には、著者と鏡花との決別の原因になったともいわれる件の場面も読めて満足でした。喧嘩の後、向き合い苦笑する夫婦の姿が好きです。2015/08/14

桜もち 太郎

6
初読みの作家。明治44年作。笹村がお銀と子供を入籍するところから始まるこの作品。どのような流れでそうなったのかを振り返る。別れたくても別れられない、不本意な同棲そして出産、。自然の感情の流れの中で、愛情が芽生えることはあったのだろうか。結婚が幸せのピークではなかったことはよくわかる。それからの事に興味がある。そして「黴(かび)」という題名、本文の中には度々「黴くさい押入」「黴くさい長持」など出てくるが、なぜこの作品が「黴」を表現しているのか。文学は奥深い。2015/08/10

二藍

6
ある時から自分の家に出入りするようになった女。さっさと縁を切ってしまおうと思うものの、子どもが生まれれば無下にもできない。いっそ結婚した方がいいのではないか、いややはりよした方がよさそうだ、なんて葛藤をそれぞれ繰り返しながら、喧嘩、冷戦、休戦、仲直り、そしてまた喧嘩……。愛情と呼べるほどはっきりしたぬくもりはあまり感じられないけれど、笹村の浮かべる苦笑には静かな思いが垣間見えるような。この人たちいったいいつ結婚するんだとけっこう焦れ焦れしながら読んだ。が、結局……。2014/05/29

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