出版社内容情報
明治四四年一月,大逆事件被告幸徳秋水ら十二名が処刑された.その一週間後,蘆花は招かれて一高の演壇にたち,死刑に処した政府当局を弾劾,精神の「自立自信,自化自発」を高らかに鼓吹する.その講演のほかに,これと密接に関連する「死刑廃すべし」等六篇,また兄蘇峰との確執が窺われる日記を併収. (解説 中野好夫)
内容説明
大逆事件被告の大量処刑の八日後に、抗議の声を上げた蘆花。死刑廃止の信念を説く関連諸篇と、大正三年五・六月の日記抄を付す。
目次
天皇陛下に願ひ奉る
謀叛論(草稿)
眼を開け(要旨速記)
勝利の悲哀
死刑廃すべし
難波大助の処分について
死刑廃止
日記 大正三年五月―六月
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
S.Mori
13
大逆事件で幸徳秋水らを処刑した当時の政府が徳富健次郎によって徹底的に批判されます。その激烈な批判には、ヒューマニストとして生きたこの作家の精神が脈打っています。徳富健次郎がもし現在に生きていたら、安倍政権を鋭く批判したかもしれません。そして自分への批判を受け流せない小心な安倍首相は激怒するでしょう。徳富健次郎のこの「謀反論」が当時の社会に受け入れらて、多くの人に影響を与えたことは、明治の人達の度量の大きさを示している気がします。2019/09/29
gtn
8
仇討ちさえも心情的に認容されていた時代に、死刑廃止を叫ぶ。皇太子裕仁を暗殺しようとした難波大助については「馬鹿者は麦飯を食わせ、肉的労働に服さすに限る」と情緒に訴えて、死刑回避を図る。著者の生命尊重の思いは本気である。身辺の危険を顧みていない。2019/01/02
K.H.
5
大逆事件後の文章および講演録。当時の盧花のキリスト教的ヒューマニズムに満ちている発言集だった。まあそれはそれでいいのだが、併録されている大正三年の日記(分量的にはこれが半分以上)は、対立する兄蘇峰や親族に対する彼の独善的な峻厳さに満ちていて、容易には共感できない。父の死を機に養子に迎えていた蘇峰の娘を返してしまうのが特にひどいと思ったが、そのほかにも妻や下宿人姉妹に当たり散らし、訪問者には居留守を使い、郵便物は開封せずに送り返す…。正直言って盧花に幻滅する。でも、実はこちらの方が読んでいて面白かった。2022/09/01
Hidetaka Ohtsubo
3
この一書を端から端まで読んで、例えば「新しいものは常に謀叛である」とかの惹句しか目に入らぬものがいるとしたら、それは馬鹿だ。重罪人の減刑を嘆願し、死刑廃止を説く、それと同じ人格が、一方では母と兄を殺したいほど憎悪し、吾儘から父を見殺しにし、良心の呵責に耐えかねた挙げ句、些細なことから妻に対して激昂し「死ね」と口走るのだ。蘆花を否定したいのではない。ただ、ここに人間という複雑なあるものを見、振り替えって我が身を考える。この本はそのためにあると言いたい。2015/08/26
プリン
2
書店で見かけて即購入。「謀叛論」の全文を読んで、改めて感銘を受けました。しかし、「新しいものは常に謀叛である」とのアジ演説を直に聞いた人々は、その後いかに生きたのかという疑問も生まれました。2010/08/23