出版社内容情報
いくつかの短篇を連ねることで一篇の長篇を構成するという漱石年来の方法を具体化した作.その中心をなすのは須永と千代子の物語だが,ライヴァルの高木に対する須永の嫉妬を漱石は比類ない深さにまで掘り下げることに成功している.この激しい情念こそは漱石文学にとっての新しい課題であった. (解説・注 石崎 等)
内容説明
いくつかの短篇を連ねることで一篇の長篇を構成するという漱石年来の方法を具体化した作品。中心をなすのは須永と千代子の物語だが、ライヴァルの高木に対する須永の嫉妬の情念を漱石は比類ない深さにまで掘り下げることに成功している。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
36
意味のある文章を読み疲れたので、意味のない文章を読むには程よい小説です。近年、一度読んでいたのを失念するくらい、全体の印象が掴みかねていました。ただし、今回は色々と新たな発見がありました。森本の存在は完全に失念していました。こんな登場人物いたっけ、という感じですが、須永の旅立ちの前提として、森本の出奔のイメージが重ねられています。探偵のプロットがよく語られますが、それは不在があってはじめて強く印象付けられます。読んでみると、不在による不安と導き手による予言の印象が強く残ります。森本や須永と松本の夭折の子が2020/03/11
テツ
26
敬太郎を中心にいくつもの短編を積み重ねて構成された物語。手放すことも忘れることも出来ないような自らの中に永遠に溜まっていく苦悩に対する人間を眺めていると、漱石を読んでいるなという実感がある。移り変わる時代。それに伴い変化する価値観と道徳観。対応出来る人間と出来ない人間。様々な人間がそれぞれの視点で世界と己に対峙して生きている。客観的にはどんなに怠惰そうに見える人間でも自分自身の固有の視点で世界を見つめ苦しみ咀嚼して生きていることを思い出す。そうしてもがく姿だけが生きている証なのかもしれないな。2017/03/05
shinano
21
岩波版で再読。平井富雄著「神経症夏目漱石」において分析されている漱石先生の大患後の長編。 内向と自制からする抑鬱性が見えている。 「心」「行人」への徹底的自己解析の導入執筆法。 読書メーターではまったくといって読まれていない「神経症夏目漱石」との併読よりも直前直後がいい。 漱石先生への精神医学によるMRI的文学走査は小説主人公と執筆者の同化と分化を精神表現から読むので、どうしても文芸的主観による批評からはそれるが、それをふまえてもこの彼岸過迄の構成法など漱石先生の思索力回復をうかがうことができる。 2017/02/05
tom
14
漱石本を順番に読み進めていて、残りはようやく2冊となった。ひょっとすると、漱石という人の書いたものは、初期の物が最も面白くて、次第にどうでもいいような話になっていくのでは、というのが、この本の読後感。この本、私にしてみれば、どうでもよいような青年の苦悩、グズグズと悩んで嫉妬する面倒な男の子。まあ、それでも残りは2冊。今年中には、読了できるかな。2017/08/21
タカヒロ
12
久々に本が読めた。修善寺の大患後の作品。一回読んだだけでは、短編が断片的に進んでいくようにしか正直読めなかった。ただ、基本的にどれも途上で終わる結末が曖昧な断片たちであり、読後、文章中に登場するあの占い師の言葉が思い出された。2023/07/07