内容説明
▼あなたは、なぜ、そこにいるのか
失踪とは何か。その不条理さ、不可解さ、やりきれなさは、何に由来するのか。
現在でも日本国内で年間に数千件規模のペースで生じている隠れた社会問題、失踪――。
失踪が惹起する実存的な問いを突きつめ、あなたや私がそこにいる、という一見自明の事態を根底から見つめなおす、気鋭の力作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おさむ
39
家出、蒸発、夜逃げ、行方不明‥‥失踪を示す言葉は古くからあり、時代によって世間の視線は変わって来た。例えば、「無縁」という言葉は古くはムラ社会からの自由という意味合いがあったが、近年は不安の印象の方が強い。要は、家族という紐帯をどう捉えるか、なのだろう。最近はネット社会になり、繋がりすぎすら指摘されている。失踪という概念そのものがなくなりつつあるのかもしれない。そんな社会もちょっと息苦しい気がする。時には親密な関係から逃げ出すことを許容すること、逃げることを認めることも大事だと感じる。2019/07/26
buuupuuu
15
現代では、親密な関係を結ぶことは、承認を与えると同時に、責任を生じさせるものでもあるという。それはケアを行う責任も含む。失踪は、そのような責任を放棄することとして捉えられるから忌避されるのだ。しかし、そのような責任論は、ときに自己責任論とともに、個人に過剰な責任を負わせてしまう場合がある。著者はそこからの解放の可能性を失踪に探っている。ところで、責任を分散させる方向へと考えていくことは、やはり難しいのだろうか。ケア関係と親密圏のカップリングや親密圏のあり方を考え直してみることは、なかなか大変そうだ。 2022/01/30
かやは
10
「失踪」という生死不明の「一方的なコミュニケーションの断絶」状態がもたらす影響と効用について、かなり具体的かつ詳細に分析している。昔の人は物事が起きる理由付けを神や妖怪に求め、意味があることとして解釈しようとした。意味の無いことがわかったしまった現代の生きづらさを感じる。ただ一つの場所に留まって辛い思いをし続けるより、一度その場から離れて失踪してしまったほうがその人自身のためになることもあるだろう。失踪することを許せる社会は救いのある社会なのかもしれない。 2018/12/07
kenitirokikuti
9
失踪を題材とした小説の書き手、代表は安部公房。失踪者が主人公な『砂の器』、失踪者を追うのが『燃えつきた地図』/映画『岸辺の旅』(黒沢清監督)は失踪者が幽霊として戻る話▲われわれの社会は進歩して自由になったが、実感として「人間関係」から自由になったのか。介護ひとつ取っても「重い」/失踪・家出・蒸発は1960〜70年に社会病理学の研究対象となったが、平成に途絶えた。ホームレスや「無縁」、夜逃げ、行方不明等に名前が変わったという解もある。2018/04/15
gecko
8
失踪とは何か。本書では「親密な関係」を「具体的な他者の生への配慮/関心を媒体とするある程度持続的な関係」と定義し、現代社会において、私たちが「親密な関係」から離脱することに抵抗感を覚える根拠を、親密な他者からの呼びかけに応答しなければならないという「親密なる者への責任」の倫理に求めている。呼びかけに対する応答責任を果たすことが困難な状況が〈失踪〉を生じさせる。自殺が「応答不可能であるという応答」であるのに対し、失踪は「応答が可能か不可能かという応答すら行うことがない」という指摘が興味深い。2017年刊行。2021/09/03