読書という航海の本棚＞ウルトラQ - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

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このところ、テレビでたまに石坂浩二の声を聞くと、子どもの頃に夢中になって見ていた番組を思い出すことがある。『ウルトラQ』である。
　『ウルトラQ』については、2005年３月に読んだ『戦後史開封』（産経新聞社）には、「テレビ初の本格的な怪獣番組」と簡単に紹介されている。読んだ当時は、首をひねったことだろう。この番組は、一言では表現できない摩訶不思議な世界への誘いだったのだから。
　本書は、1966年から放映が始まった全28話を、テーマごとに分類し、物語の概略とともに、それぞれの話の社会的、歴史的そして文化的背景を考察した研究書である。録画が不可能だった時代、見逃した作品もいくつかあり、初めて目にする内容はむしろ新鮮だ。子ども向けの番組だったが、今回の読書で改めて確認できたのは、この番組が、先行した米国の同種の番組の影響はあったものの、日本独自の社会性、人間性に複数の角度から着目していたということだった。
　一度しか見ていないにもかかわらず、今でも鮮明に記憶している作品がいくつかある。特筆すべきは、古代怪獣が登場する初回放送の「ゴメスを倒せ！」、狭い国土問題を解決する方策として縮小化を進める社会を描いた「１/８計画」、そして、巨大な蜘蛛が巣食う屋敷を舞台にした「クモ男爵」。SF、怪奇、幻想、そして諷刺もある、不思議の博覧会だった。
　小学生にとっての「娯楽番組」が、本書を読むと、高度成長時代の日本が抱えていた問題と未来への不安を演出していたことが見えてきた。「30分の不思議体験」に誘われて目にしたのは、現実ともう一つの世界の間の「割れ目」だったのだ。
　巻末で、第19話の「2020年の挑戦」が紹介されている。（この話は全く覚えていないので見逃したようだ）２回目の東京オリンピックが開催されたとある。そして、ケムール星人の来襲による混乱。どこか現実と似ている。
　ここへきて、石坂浩二の声色から、忘れていた『ウルトラQ」を無意識に懐かしむようになっていたのは、いつのまにか見知らぬ世界に迷い込んでしまったからだと思えてきた。全世界が『ウルトラQ』に包み込まれたようだ。

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