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前提を揺さぶる驚き 研究という営みにも着目、重要な視点を提示 『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール 著)【書評専門誌 「週刊読書人ウェブ」】

動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか

動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか

フランス・ドゥ・ヴァ-ル、松沢哲郎 / 紀伊國屋書店
2017/09出版
ISBN : 9784314011495
価格:¥2,376(本体¥2,200)

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【内容説明より】
ラットが自分の決断を悔やむ。カラスが道具を作る。タコが人間の顔を見分ける。霊長類の社会的知能研究における第一人者が提唱する"進化認知学"とはなにか。驚くべき動物の認知の世界を鮮やかに描き出す待望の最新作。

【評者】蔦谷 匠(京都大学大学院理学研究科・日本学術振興会特別研究員〈PD〉)

本書には、ヒト以外の動物の認知(知性や知能と言いかえてもいいかもしれない)に関する最新の成果が、豊富な逸話や研究事例とともにまとめられている。サル、鳥、犬、魚、タコといった動物たちが、じつはどれだけ賢かったのかが、いきいきと描き出されている。別な個体は好物のブドウを報酬としてもらっているのに、自分はキュウリしかもらえないことに気づくと癇癪をおこすフサオマキザル。自分しかアクセスできない場所にある餌を横取りされないために、他個体を欺くチンパンジーやカラス。巣作りに使われる枝を鼻先に浮かべて、それを取りにきた鳥を捕食するワニ。動物の認知に関する最新の研究状況が概観できるだけでなく、こうした事例の数々は、読み物としても非常におもしろい。

しかし、内容は単なる事例の列挙にとどまらない。本書は、そうした成果を生み出す研究という営みにも着目し、動物の認知に関して、「人間が評価し、試験している」点に注意せねばならないという重要な視点を提示する。この部分が本書のユニークな特徴であり、前提を揺さぶる驚きが得られる。

まず、私たちは、ヒトがするようなことをどのくらいできるか、という基準で動物の認知を評価しがちだが、そうした態度は不当であるというのが一貫した主張だ。ハイイロホシガラスは、0から10まで数をかぞえることはできないかもしれないが、秋には何百もの場所に2万個以上の松の実を蓄えておき、冬と春のあいだにその大半をみつけだすそうだ。コウモリは鏡にうつった自分を認識できないかもしれないが、自身の発声する超音波の反響を、他個体の音声のなかから聞きわけるとのこと。

ヒトを含めた動物たちは、進化の過程で、それぞれの生息環境や繁殖戦略にあわせて、形態や行動だけでなく、独自の認知能力を発達させてきた。だから、ヒトを単純化したものがサル、サルを単純化したものがマウス、といった見かたは正しくない。人間基準の評価軸にむりやり当てはめるのではなく、進化によって獲得された本来の能力を引き出し、動物の認知能力の多様性を明らかにすること、近年の研究はそのような態度で実施されているそうだ。

そして、動物の認知能力を調べるためには、人間が動物に対して何らかの試験をする必要がある。ここに大きな落とし穴があったことも、本書には述べられている。動物はヒトの言葉がわからなくても、ジェスチャーや無意識の動きを注意深く観察することで、あたかも言葉がわかるかのように、正解を選びだすことがある。また、その動物が本来暮らしている野生の環境と実験室の状況が大きく異なり、実験では本来の能力が発揮できない場合がある。

科学や研究は人間の営みであり、ときにやり方を誤ることがある(そして動物の認知の研究においては、この「やり方」がきわめて重要である)という事例が紹介される。足し算がわかると考えられていた馬が、正解を知っている飼い主の無意識の体の動きを「読体術」して答えていただけだったり、ヒトとチンパンジーの子供の認知能力を比較する実験が、意図せずヒトに有利な条件で行なわれていたり(条件を平等にするには、白衣を着たチンパンジーがヒトの子供を試験しなければならない!)。 

最後に、本書を読むと、霊長類の認知の研究の大家である著者が、無類の動物好きなだけでなく、じつに誠実で慎重な研究者であることがよくわかる。動物の認知という、観察された現象をデータにするのが難しく、しかも「人間が評価し、試験している」ことによるバイアスが入り込んでくる研究分野で、きっちり成果をあげるためには、この誠実さと慎重さが必須なのかもしれない。


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2018.01.30 書評で読む