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多様な働き方のなかで派遣労働をどう位置づけるか『派遣労働という働き方』(島貫智行 著)【書評専門誌 「週刊読書人ウェブ」】

派遣労働という働き方 市場と組織の間隙

派遣労働という働き方 市場と組織の間隙

島貫智行 / 有斐閣
2017/04出版
ISBN : 9784641164970
価格:¥4,644(本体¥4,300)

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【内容説明より】
制度改正等にも促される形で増加傾向にある派遣労働者は,分離した指揮命令関係と雇用関係のもと,いかなる困難に直面し,それをどう乗り越えようとしているか。質的調査で当事者視点に迫りつつ,「仕事の質」概念によって,その多様な側面を総合的に検討する。

【評者】水野 有香(名古屋経済大学准教授)

女性の働き方の一つとして定着してきた、事務系業務の登録型派遣労働。本書は、「労働者にとって派遣労働はどのような特徴を持つ働き方なのか」というシンプルな問いに対し、事務系業務の登録型派遣労働に関する聞き取り調査と質問票調査から明らかにしようと試みており、リアルな派遣労働者像を理解できる格好の書である。

しかし、なぜ派遣労働が合法化されて三二年経った今「派遣労働という働き方」の本質を検討するのか。結論を先取りすれば、論者によって捉え方や評価が大きく異なるからである。派遣労働には、労働者と派遣元企業と派遣先企業の三者関係で雇用関係と指揮命令関係が分離していること、非正規労働や女性労働の特徴を持つことなどの複雑な要素がある。そのため、雇用が不安定で賃金が低く能力開発機会が乏しいことなどの否定的な評価と、仕事の選択可能性や労働時間の柔軟性が高いなどの肯定的な評価に分かれ、両者の議論は平行線を辿ったままである。それに対し著者は、(1)これらの見方はある特定の側面に限定して評価している、(2)派遣労働が他の働き方と異なる特徴を持つ可能性を見逃してしまっている、(3)本来派遣労働という働き方が持つ複雑さを十分に検討できていない可能性があるという三つの問題点を挙げ、そこに一石を投じようとしている。

本書のキー概念となっているのは、当事者視点、仕事の質、三者雇用関係である。

当事者視点に関しては、派遣労働者の視点を中心に据えることにより「働き方」が丹念に分析されている。特に、派遣労働者に対する聞き取り調査では、質問票からは見えてこない本音や裏腹な感情が垣間見られ、それらは非常に重要な資料である。

また、仕事の質に関しては、賃金・付加給付・仕事の自律性・労働時間・雇用の安定性・能力開発機会の六つを指標として利用しており、客観性・主観性のバランスがとられている。

そして、三者雇用関係に関しては、責任の不在や労働者が委縮してしまうなど様々な問題が浮き彫りになっている。その背景には、派遣労働は人件費ではなく外注費や物品費として計上することから、人事部ではなく現場の管理者の管理や意思決定に大きく依存するということがある。くわえて、派遣労働者は派遣先企業・派遣元企業両方から従業員と見なされていないという重要な指摘もされている。他方、質問票調査の分析から、二者雇用関係と比較して仕事の質が総じて劣っていることが示されている。

さて、ここで本書の意義を考えてみたい。それは、労働者視点の「仕事の質」に注目し、派遣労働の仕事の質が劣るのは、労働契約(有期労働契約・無期労働契約)と雇用関係(二者雇用関係・三者雇用関係)のどちらによるものなのかを分析しているところである。分析の結果は、付加給付の少なさや雇用の安定性の低さ、能力開発機会の少なさは有期労働契約と三者雇用関係の両方から生じており、賃金の低さや労働時間の柔軟性の高さは有期労働契約から、さらに仕事の自律性の低さは三者雇用関係から生じている可能性があるとしている。

そこから見えてくるのは有期労働契約と三者雇用関係の弊害であるが、著者が目指す派遣労働のあり方は、労働者にとって望ましい働き方に変えていくというものである。なぜなら、派遣労働を正規労働に近づけても正規労働のセカンドクラスに位置付けてしまうだけだからである。具体的には、多様な働き方のなかで、労働時間の柔軟性は高く、雇用は安定し、労働市場で広く活用できる技能と専門性を蓄積できる働き方に改革していくというものである。それは、派遣法制定時に議論されていた専門性の高い「中間労働市場論」に近いものを感じる。

二〇一六年現在、「労働者派遣事業所の派遣社員」は一三三万人で、役員を除く雇用者の二・五%である(労働力調査(詳細集計))。今後の派遣労働を考えるには、歴史を踏まえたうえで市場規模も考慮して検討することが必要であろう。




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2017.09.28 書評で読む