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大人のための植物図鑑 植物の蟲惑に迫る著者の想像の翼『官能植物』(木谷美咲 著)【書評専門誌 「週刊読書人ウェブ」】

官能植物

官能植物

木谷美咲 / NHK出版
2017/05出版
ISBN : 9784140093566
価格:¥3,996(本体¥3,700)

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【内容説明より】
各地の神話や伝説の中から、古今の植物学・博物学・心理学などの蓄積の中から、「植物に性を見るまなざし」を探り出す。植物の姿形や生態に対する精緻な観察を通して、深い思索と奔放なイマジネーションを繰り広げる―。暗がりに放り込まれていた「官能」が、あざやかに立ち上がる。

【評者】相馬 俊樹(美術評論家)

生の根源に通じる官能という観点から植物を探求する本書は、妖奇と艶美の草花の鮮明な写真群をほぼ全頁に配し、その解説文には「女性器」「陰核クリトリス」「小陰唇」「男性器」「亀頭」「陰嚢ふぐり」「包皮」など性にまつわる語が散発される、いうなれば大人のための植物図鑑である。「形態」「生態」「匂い」「利用」といった四つのテーマに章分けして植物の官能にアプローチを試みるわけであるが、植物の形姿にエロティックなイメージ、というよりあからさまな男女性器のイメージを重ね見る「形態」の章がほとんど半分くらいを独占する。昆虫と同様、完璧なまでにくっきりと明確な形態美を誇る植物の生殖器官=花は、むしろ人間の性器よりもずっと淫靡なムードを伴って見る者の性感を刺激するのかもしれない。それかあらぬか、神話、文学、精神分析などを縦横に引用して植物の蠱惑に迫る著者の想像の翼は、ときに驚くほどの羽ばたきを披歴するだろう。自身の偏愛する食虫植物、有毒植物、蘭科植物のような、グロテスクにさえも急接近する濃密な自然美に浸り切ることを自らの任とした著者であるなら、内なる想像の全領域をその魔の奔流にゆだねようとする姿勢はむしろ当然といえるのかもしれない。

思うに、実のところ、本書において官能の極みを最も強く印象づけられるのは、死の香りに彩られた、人の目には残虐と邪悪と映る魔性全開の植物群なのではなかろうか。ある食虫植物はみだらな粘着性の体液で虫を誘惑し、消化し付着させた犠牲虫の屍でその身を飾り立てる貪婪ぶりを発揮し、また他の食虫植物は去勢の恐怖を煽り立てる「ヴァギナ・デンタータ」の性的悪夢を惹起する。また、ある巨大な男根状植物は死臭のごとき強烈な匂いを放ち、死体に群がるといわれるシデムシをおびき寄せて受粉に利用する。さらに、ある致死的な毒草はそれ自体を媚薬として用いられることもあったという。

著者いわく「一つの存在に閉じ込められて相反する生と死。そこから噴出するのが官能だ。」あるいは、やはり著者いわく「...生と死のせめぎ合いから生まれる火花こそが「性」であるということだ。官能の一つの真理である。」
 戦慄の魔性を秘めた禍々しき植物にこそ、極まった官能が宿る。死をもとり込んだ生の根源的様式においてこそ、官能の炎は最大限の輝きを発するのであろう。




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2017.09.07 書評で読む