書評で読む

素直なまでのリアリティ 書店で重要なのは本とそれを買う客 NR出版会編『書店員の仕事』【書評専門誌 「週刊読書人ウェブ」】

書店員の仕事

書店員の仕事

/ 新泉社
2017/04出版
ISBN : 9784787717009
価格:¥2,052(本体¥1,900)

本棚に登録 カートに入れる 店頭在庫検索 電子書籍はこちら

【内容説明より】
書店とはどういう空間なのか。書店員とはどういう仕事なのか―。真摯に本に向き合い、読者に向き合い続ける59人の店頭からの声。

【評者】柴野 京子(上智大学准教授・出版流通論)

 全国の書店員五十九名が、自らの仕事について語った文章とインタビュー、七十編をまとめた一冊である。編者で発行元のNR出版会は、人文社会系の小出版社十社が参加する団体で、書店向けPR誌「NR出版会新刊重版情報」に、二〇〇九年から足掛け七年半にわたって掲載されたコーナーが本書の元になった。

 誤解をおそれずにいえば、この本に登場する書店員の多くは、「カリスマ書店人」としてとりあげられる人々ではない。ひとりあたりの文字数も限られており、いくつかの店はもうすでに存在しない。

 こうした書店が抱える厳しさを最近の本屋ブーム(あるいは本屋本ブーム)と比較して評することもできるだろう。出版不況や書店の減少が、長く続いてきた「出版業界」の終焉ならば、いっぽうで「ブーム」の主役になっている人々は、コミュニケーションを媒介する手段としての本や本屋に改めて向き合い、価値を見出そうとする取り組みで、注目を集めているからだ。

 だがページをめくっていくと、そんな訳知りの区別は、書店の本質にとってどうでもいいことのように思える。たとえば紀伊國屋書店新宿南店の山下真由さんたちは、全国屈指の大書店を「近所の店」として訪れる人々のことを考える。事実上の撤退がきまったある日、カウンターにそっと置かれた匿名の手紙は、その店を惜しむ周辺客の声である。あたりまえだが書店で何より重要なのは、本とそれを買う客である。書店員の仕事とは、究極的にはその最適化なのであって、各々の事情はあれども、規模の大小や経営スタイルで変わるものではない。

 およそ三分の一を占める東日本大震災被災地の手記には、生命の危機にさらされた当時のこと、今のことが綴られている。福島県南相馬市・おおうち書店の大内一俊さんの文章は、「もう帰れないかもしれないと思った」というひとことで結ばれる。二〇一一年と一五年に寄稿しているくまざわ書店須賀川店(当時)の菅原聡子さんは、首から線量計をさげて店に来る子どもたちにショックを受け、店内に設けた原発関連の棚が、四年後に「つまらない棚になっているのではないか」と葛藤した。率直なまでのリアリティは、本屋という場所の中でも日々が動いていることを教えてくれる。

 「本屋」に特別な思いを読み込むより、それを仕事にする人の日々に気づくこと。そして何より本を買うことが、この人たちの仕事に応える唯一の術である。




【ロゴ】週刊読書人ウェブ.png

創業1958年、書評新聞「週刊読書人」のウェブサイト。
書評、インタビューや対談、著者・評者プロフィールなど本・出版にまつわる情報を一挙にご紹介。人文、哲学、思想から芸術、文化、サブカルまで。話題の書籍だけでなく、一般雑誌では取り上げられないような専門書などにもスポットライトを当て、大学教授や専門家がきめ細かに解説します。
【購読のお申込みは】http://www.dokushojin.co.jp/?pid=76968373

2017.08.10 書評で読む