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七〇年代の『明星』は「男女共学」 アイドルはファンと地続きの場所にいた『「アイドル」のメディア史 『明星』とヤングの70年代』(田島 悠来 著)【書評専門誌 「週刊読書人ウェブ」】

「アイドル」のメディア史 『明星』とヤングの70年代

「アイドル」のメディア史 『明星』とヤングの70年代

田島悠来 / 森話社
2017/03出版
ISBN : 9784864051149
価格:¥4,968(本体¥4,600)

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【内容説明より】
「新御三家」や「花の中三トリオ」などが誌面を飾るグラビアページや、ポスト団塊の世代のヤングたちが活発に議論をかわす読者ページの分析から、アイドル文化装置としての『明星』を解き明かす。

【評者】難波 功士(関西学院大学社会学部教授・広告論/メディア史)

故吉野朔実のマンガ『瞳子』には、「アイドル」と題された章がある。舞台設定は一九八〇年代前半あたり、瞳子は二〇代半ばの、今で言うフリーター。瞳子の姉は、かつてアイドルに憧れていたらしい。フリルのついたドレスを着て、歌謡曲を振り付きで歌っていた時代のそれである。一方、姉に比べ性格的に地味なため、アイドルとは無縁だと男友達にからかわれた瞳子は、「だいたい、アイドルのどこが面白いのよ。ポスターになりゃ、ヒゲ描かれたり、鼻の穴にガムくっつけられたり、さんざんじゃないよ!」とキレている。

 七〇年代に巻き起こった、第一次アイドルブーム。当時、基本的にみなソロで活動していた。だが、それらアイドルたちが、バラバラに存在していたわけではない。同じオーディション番組出身というつながりを持ち、また実際に学校の同級生である場合も多い彼・彼女たちの交遊の様子を、雑誌『明星』はファンたちに提示していたのである。

 今日の『Myojo』は、ジャニーズの男性タレント満載の雑誌だが、当時の『明星』は「男女共学」であった。一九六一年生まれの評者ですら、七二年に男子高校生にもっとも読まれた雑誌が、『明星』であったことに驚愕する。ましてや八〇年代に生まれた著者にとって、七〇年代アイドル誌は、新鮮な未知の世界なのであろう。アイドルが親孝行する姿や大学受験に挑む様子が描かれ、男女のアイドルが対談していたりする。番組で共演することが多く、その仲が噂になっていた西城秀樹と浅田美代子が、二人はそうした関係ではないと語っていたり、「奈々ちゃんは堀越学園だったね。ぼくも、あそこへ行きたかったんだ」「ぜひいらっしゃいよ。先輩としてみっちりいじめてあげるから」と談笑する岡田奈々と豊川誕...。

 また読者コーナーも、同じ「ヤング」としての仲間意識に溢れている。実名での投稿も多く、時には読者同士で意見の応酬となることもあるが、[明星アニキ]がやさしく議論をリードしたりもする。この[明星アニキ]のプロフィールも誌面で明かされており、歴代アニキのいずれもが早稲田大学卒の編集部員であったという。今ならば「上から目線」で介入するなと反発がありそうなものだが、当時はまだ年長の、都市部の有名大学出身者というのは、それなりの威信があったのだろう。

 この時代、メディアはアイドルの実像を伝えるものと思われていた。テレビ番組がきっかけのデビューから見守り続け、雑誌でその動静をつぶさに追ってきたアイドルは、メディアの向こう側であるにしろ、ファンと地続きの場所にいたのである。それゆえ、仰ぎ見る映画スターのブロマイドには不可能であっても、アイドルのポスターならばヒゲが描けてしまうのだ。

 その後アイドルは、会いに行けたり、ファンたちの総選挙によって選ばれる存在となっていった。またファンたちはネットを駆使して情報を集め、多人数アイドル・グループの中の人間関係を、さらにはプロデュースする側の意図を読み込み、解釈を加え、仲間内だけで消費するようになっていく。

 マスメディアの全盛期である七〇年代。アイドル同士が、ファンとアイドルが、ファン同士が、テレビ・ラジオ・雑誌のメディアミックスのもと、マスな「ヤング共同体」として、まさしく青春を謳歌していた。私などは、その時代を自らの黒歴史として目をそむけてしまうが、著者は嬉々として丹念に『明星』を読み解いていく。その若さは、羨ましい限りである。


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2017.07.28 書評で読む