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読者は「私」であり「あなた」 仕事を楽しみ、工夫することが文化の始まり『社史の図書館と司書の物語―神奈川県立川崎図書館社史室の5年史』(高田高史 著)【書評専門誌 「週刊読書人ウェブ」】

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社史の図書館と司書の物語―神奈川県立川崎図書館社史室の5年史

柏書房
2017/02 出版
ISBN : 9784760147816
価格:¥2,052(本体¥1,900)

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【内容説明より】
日本有数の社史(企業の歴史書)を所蔵する図書館で、司書のアイデアが図書館の新たな役割を生み出す物語。社史を日本の文化とし、企業の経営と意外な裏側、社史にしか記されない情報や、社史編纂担当者の想いも伝えていく。

【評者】石橋 毅史(ライター)

企業の社史を集める図書館の話―入口の狭い本である。内容も、誰もが驚く画期的なプロジェクトが描かれているわけではない。

 この小さな物語の読者は誰なのだろう?

 舞台となる神奈川県立川崎図書館には二〇一六年時点で約一万八千点の社史が所蔵されており、それでも著者の感触では「日本で刊行される社史の三分の一にも達していない」。日本は欧米などと比べ社史の多い国なのだそうだ。
 京浜工業地帯の中心という地域性から商工業関連の資料収集には積極的だったという同館が「社史室」を設けたのは一九九八年。本書は、企画展示や連続講演会の実施、メディアへの露出や定期刊行物の発行など、同館の司書である著者が深く関わるようになった二〇一一年からの五年間に話題を集中させている。

 まず思ったのは、一般利用者にその魅力を知ってもらうだけでなく、同業の図書館関係者にメッセージを送る狙いがあるのでは、ということだ。既定の図書分類にない「社史」という小さなジャンルを盛り上げていく過程で、何をし、どんな成果を得たかを、かなり細かく記している。既存の分野をひと通り揃えただけに映る多くの公共図書館に、あなたのところに眠る地域性や図書館員の特性を活かせ、こんなふうにやればできる、と静かな檄を飛ばしているように読める。

 図書館をテーマにした過去の著作が定評を得ている著者だけに、本書は多くの図書館に所蔵されるだろう。実際に、書店で客が金を払って買うよりは、図書館員や利用者が図書館で手にすることを想定したタイプの本という印象を受ける。小さな物語が、そのサイズのまま気負いなく書かれているからだ。

 ただしこれは、だから読者も限られる、という意味ではない。

 いちばん歴史の長い社史、重たい社史、厚さは計測しにくい、といった面白いけれど意義のやや不明なトリビア、展示や講演会に対する反響の紹介、さらに「タモリ倶楽部」にとりあげられた思い出とか「自分で自分に取材してみました。」という奇妙な三頁とか...十年前に上梓した『図書館が教えてくれた発想法』で、著者は小説仕立ての柔らかい文章で図書館の使い方を易しく教えてくれた。それに比べ、今回は「自分」ばかりが面白がり過ぎているのでは? とも思いながら読み進んだ。

 だが、最終章の後半からあとがきに至ると、著者がそれらを確信犯的に表現したらしい、ということに気づく。

 誰もが小さな仕事をしている。得られる成果はささやかだ。だがそれを成したのは、尊大も謙虚もミーハー心もプロ意識も全部たずさえた、等身大の「自分」である。他の誰でもない「自分」が目の前の仕事を楽しみ、工夫することが文化の始まりなのだということを、本書は知らせてくれる。小さな物語であるからこそ、その読者は「私」であり「あなた」なのだろう。

 ちなみに川崎市が遠いという人には同館ホームページの「バーチャル社史室」がお勧め。写真が豊富で、社史情報誌「社楽」のバックナンバーも読める。




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2017.06.01 書評で読む