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人気アニメを読み解く高密度の「教養書」『教養としての10年代アニメ』(町口 哲生 著)【書評専門誌 「週刊読書人ウェブ」】

教養としての10年代アニメ

教養としての10年代アニメ

町口哲生 / ポプラ社
2017/02出版
ISBN : 9784591153383
価格:¥972(本体¥900)

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【内容説明より】
2010年代を象徴する7作品を教養で読む!教養という概念は「人格は形成されるもの」という考えと結びついている。人格を形成する役割はかつて哲学や純文学が担ってきたが、ゼロ年代になると若者に対するポップカルチャーの影響は無視できないものとなった。本書では、教養として「10年代アニメ」を分析することで、現代社会や若者についての理解を深めていく。

【評者】渡邉 大輔(映画史研究者、批評家、跡見学園女子大学文学部助教授)

 今年は、国産アニメーション誕生一〇〇年にあたる。奇しくも昨年は「アニメ映画の当たり年」と言われたが、いまや「アニメ」は日本を代表する文化産業にまで成長している。アニメは今日、世界や人間を知るための「学問」であり、また自己修養の契機をもたらす「教養」の一つとしてすらみなせるだろう。というのも成熟した現代アニメは、著者のいう「情報娯楽Infotainment」としての側面を持つのであり、したがって、かつての文学やアートと同様、高度で複雑な表象コードを含んでいるからだ。
 本書は、それ自体が教養=情報娯楽として成熟した二〇一〇年代の人気アニメを、多様な教養=文化批評的な言説を駆使して読み解くものである。本書の元になったのは、著者の近畿大学での名物講義。シラバスに記載された「深夜枠を中心に週20本以上のアニメ視聴」という文言がネットで話題を呼んだ。
 全体は三部から構成されており、第一部では『魔法少女まどか☆マギカ』、『中二病でも恋がしたい!』、『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』を題材に若者文化における「自己と他者」の問題が、第二部では『ノーゲーム・ノーライフ』、『ソードアート・オンライン』を題材に「ゲーム化」した世界のリアリティが、そして第三部では『とある科学の超電磁砲S』、『COPPELION』を題材に監視やリスクといった現代世界の構造がそれぞれ中心的に論じられる。文芸評論家である著者の専攻は哲学・現代思想だが、本書でもこれらアニメファンにはお馴染みの有名タイトルの物語や主題、構造が、文理を越えたさまざまな「教養」によって高密度かつ高速で解析され、その作品としての可能性や秘められた魅力が存分に照射されていく。簡にして要を得た解説が適宜付されるものの、次々と膨大な言説が縦横に参照されるため、読者によっては難解に感じる部分もあるだろう。だが、該博な教養から人気アニメにまつわる隠された文脈を浮かび上がらせる著者の手際はスリリングで、鮮やかである。
 何より本書は、単にアニメ批評本の枠を超えて、かつて二〇〇〇年代に隆盛したサブカル/オタク的な文化批評のアップデートという重要な意義も担っている。十年ほど前、本書でも参照される東浩紀や宇野常寛をはじめ、アニメ、マンガ、ライトノベルなどのポップカルチャーを扱う文化批評は大きな盛り上がりを見せた。ところが、ここ数年は震災後に多くの批評言説が直接的な運動や実学のほうに舵を切ると同時に、こうした文化批評は以前より顧みられなくなった感もある。しかし、当然ながらいまなお注目すべき傑作は無数にあり、それらを批評する新たな分析枠組みも不可欠だろう。本書で著者が提示する「絶望少女系」「残念系」「ネットワーク的リアリズム」「ハードサヴァイブ系」といった用語の数々は、そのための貴重な参照枠になりうるはずだ。
 正統にして、意欲的な「教養主義の再興の試み」(二二八頁)である。

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2017.04.21 書評で読む  まなび 社会 書評 週刊読書人