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【ホンのさわりですが 今日の一節】 『日本風景論』 池内 紀

 日本の各地を、著者の池内紀さんと一緒に歩いているリアルな感覚が楽しめる一冊。でも単なる旅行見聞記と違うのは、(書名が「論」となっているとおり、また「抜書き」した部分もその好例ですが)ところどころで記される鋭い文化的・社会的・人間学的な考察の豊かさです。この夏、「池内風景論」とともに歩く旅をしてみては、いかがでしょうか。

 「峠」という字は漢字だが、中国で作られた文字ではない。日本人が考え出した、いわゆる「国字」である。中国人に意味をたずねると、きっと「山の頂上」と答えるだろう。たしかに文字のカタチからして理にかなっており、当然の意味解きというものだ。


 だが、日本人は山頂ではなく、山を越えるための途中の坂に、この字を使ってきた。山道を上りつめて、やおら下りにさしかかる一点、その微妙な境界。「峠を越えていく」というと、さして距離はなくても、はるか遠くへ行くような気がする。「峠の別れ」は、ひとしお別離が痛切だ。「峠を越えた」といえば山道にかぎらない。何か困難をともなうこと、その困難のあらかたをすませたというぐあいになる。

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「ホンのさわりですが 今日の一節」では、さまざまな本の中から、心に響くフレーズ、魅力的なひとまとまりの文章を抜書でご紹介します。文章そのものが持つ力を、お楽しみください。

(編集部 川島洋)

日本風景論
池内紀
角川学芸出版 (2009/03 出版)
ISBN:9784047034426
価格:¥1,728(本体¥1,600)

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2011.07.28 注目の本  ホンのさわりですが 旅 日本 紀行