イベントに行こう

ビブリオバトル@紀伊國屋書店顛末記 【わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる より】

紀伊國屋書店新宿南店で現在2ヶ月に1度、偶数月に定期開催しているビブリオバトル in 紀伊國屋。回を追うごとに人が人を呼び、ますます盛況になってきているこのイベントですが、6/26(日)の会にはなんと! 本好きの間で有名なブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」のDain さんにも出場いただきました。

惜しくもチャンプ本は逃したDainさんでしたが、ブログにレポート頂いた「顛末記」は、「ビブリオバトル必勝法」としても読めるすばらしい内容。そこで今回は、ご本人の許可をいただき、ここに全文を転載させていただきます。Dain さん、ありがとうございました。またのご参加をお待ちしております!

これからビブリオバトルに参加される方は、この記事を読んでおくといきなりチャンプ本が狙える...かも?しれませんよ。
(編集部 須賀喬巳)


*新宿南店の ビブリオバトル in 紀伊國屋 は次回、8/21(日)の開催を予定しております。詳細が決まり次第、当サイトでご案内致します。




ビブリオバトル@紀伊國屋書店顛末記

 オススメ本を紹介しあい、「チャンプ本」を決めるビブリオバトル。6/26に行ってきた→惨敗だった。まずは敗因分析をレポートし、ビブリオバトルの傾向と対策を分析しよう。そしてチャンプ本や印象に残った本を紹介しよう。まずは参戦した本の山をご覧あれ。

20110626_.jpg

 参戦者の持ち時間は5分。観覧者に向かってオススメを一冊プレゼン+質疑応答する。一巡したら、最後に挙手で多数決を採るシステム。わたしは第一ゲームの最初の発表者で、持ってきたのは永江朗の「本の現場」。けして他の参戦者の本と遜色ない(というか、ダントツでスゴ本)、さらに「スゴ本知ってる人います?」と聞いたら、かなりの人が反応したので、こりゃイケると思いきや、得票は最低。読書意識が高く、本が好きなら必ず食いつくネタなのにーというわたしの思いは空回り。

 なぜ、わたしのプレゼンは最低だったか?

 それは、「読みたくなった本」を選んでもらう場だから。本をダシに自分語りをしたり、本をネタに一席ぶつ場ではないから。もちろん自分語りをしてもいいし、「親爺の主張」をしても問題ない。だが、評価は"語り"や"主張"ではなく、そいつを通じて、観客が「読みたくなったか」に懸かっている。

 わたしは、これが分かっていなかった。「本が売れていない」「最近の若者は本を読まない」というマスコミ・ストーリーに統計情報で対抗する姿勢を評価したかった。あわせて、本との付き合い方がドラスティックに変わったことを伝えたかった([このへん]でアツく語っている)。わたしの熱意は伝わったようだが、だからといってその本が「読みたくなった」かは別だ。

 それよりむしろ、純粋に「これ面白いよ」と差し出されたエンタメや、大好きだーという気持ちがダイレクトに分かる作品の方が、「読みたい」気分を後押ししたようだ(なぜなら、わたし自身が読みたいと思ったもの)。

 もう一つ。観覧者からのフィードバックで知ったのだが、「スゴ本ブログで知ってた/もう読んだ」(だから改めて読みたいとは思わない)という意見がかなりあったこと。なるほど、確かにおととしこのテーマで誉めまくってたからねぇ...古かったかもしれぬ。ここ経由で見に来てくれる人のために、このブログで出してない奴を引っ張ってこないと【課題1】。

 非常に参考になったプレゼンがあった。中身には全くといっていいほど言及せず、その周囲をウロウロしたり、その本と自分のエピソードを思い入れたっぷりで語る語る。持ち時間をシズル感でいっぱいにするやり方、これはいい。特に、最初は訥々としたしゃべりなので、場慣れしていないのかと思いきや、だんだん熱っぽく饒舌になり、「ああ、この本が本当に好きなんだな」という愛情が素直に伝わってくる。

 後になってパラ見したら、なあんだという気分になったが、実際に開くまでは「読みたい」とワクワクさせられたから、これは成功といえる。悪い言い方になってしまうが、ビブリオバトルの必勝法は「読みたい気分にさせる」ことだから。中身を圧縮して伝えればいいと思い込んでいるわたしは、学ぶべき→中身に触れず魅力だけ伝える【課題2】。

 あと、決め文句重要。POPみたいなもので、本そのものを伝える短い決めゼリフは練っておかないと。今回のチャンプ本では、「この本を読むと、"本が呼ぶ声"が聞こえてきます」と「恐い本は好きで沢山読んできましたが、これが一番恐いです」。あざといかもしれないが、「レジまで持って行かせれば勝ち」に通じるものがある。それでも、レジの後、読ませるまでの動機付けとなるような、磁力ある惹句を準備するぞ【課題3】。

 ビブリオバトルの傾向と対策は、次の3つのポイントに絞られる。

 まず斬新性。必ずしも新刊でなくてもOKなんだが、聴衆にとって「未知の本」であればなおよろし。「本が好き」で集まってくる人たちは、そのまんま小説好き、ストーリー好き。マイナー出版社や傍流の翻訳文学がねらい目。あるいは、逆サイドを突いて、メジャーな作品の新しい読み方を提示できるなら―――かなり上級だが―――勝利に直結する。若手が集まりそうなら、ちょい古め(ボルヘスとか石川淳)を持ってくると目新しがられるかも。

 次はシズル感。すべて言う必要はないし、むしろ言わぬが華。ポイントをまとめて伝えるということは、「読まなくてもいいや」という気にもさせる。正確に伝えるよりも、むしろボかすことで聞き手が都合よく「面白そうだ」と採ってくれるように仕掛ける(やりすぎ注意)。本のタイトルを冒頭にもってこず、イントロダクションでジらすという小技も使える。内容を最低限に魅力だけを伝えるには、話術が必要、エピソードを組み立てろ、熱っぽく語れ。

 そして決め惹句。「この本を読むとこんなオトク感がありますよ」などと、メリットを短く強く言い表す言葉を選ぶ。冒頭のツカみとラストでくりかえす。「人生でありえないほど泣きじゃくる」「ご飯も食べずにイッキ読み」と、五七調を心がけろ、韻を踏め。面白い理由を観客に考えさせない、5分かけて刷り込ませる。ランキング重要。シズル感にもつながるが、「第3位~」「第2位~」と並べることで、聞き手の既読本と友釣りで釣れる。紹介本は一冊限定だが、別の本を出してもいいらしいので、ランキング形式は使える。

―――こうやって文章化すると、あざとさが透け見えるなぁ。だが、そんな後ろめたさを吹き飛ばすようなスゴ本を選べばヨロシ。

 では、どんな本が「チャンプ本」すなわち「一番読みたくなった一冊」に選ばれたか?

4163291407.jpg 第1ゲームはマックス・ブルックス「WORLD WAR Z」でゾンビもの。しかもゾンビ戦争が終結した後に、関係者にインタビューをするという異色作だ。紹介者の「得体の知れない恐怖がゾンビというメタファー」という評に惹かれた。あと、普通のゾンビものと違って、最後に人類が勝つのだそうな。ではどうやって? それは読んでのお楽しみ! なんだって。ドキュメンタリーなゾンビなら、ヒロモト森一の「少女ゾンビ」あたりを思い出すなぁ。

4794926618.jpg 第2ゲームはケルバーケル「小さな本の数奇な運命」で、本好きな人のためのファンタジーだという。本よりも「語り」が抜群にうまい。その一冊と自分とのエピソードを積み重ねることで、中身を言わずに面白さだけを伝える、かなり高度な技術だ。"ある本"が二人称で自らを物語るのだが、シズル感満載のプレゼンに、衝動買いしたくなる。わたしが発した質問「"その本"のタイトルは?」への返答がまた秀逸→「明かされていません、これは、読んだ人があれかな、これかなと思い巡らすものでしょう」

 第3ゲームは井上靖「補陀落渡海記」。人生で一番こわい思いをした短篇なんだって。即決だったね(聴衆の反応もそう)。自分の人生が、ある日、期限付きの人生になってしまう怖さ、人生が時限爆弾になってしまうという惹句に、これは! と即買い→即読んだ......が、この怖さは生の一回性の可視化の怖さ。トルストイ「イワン・イリイチの死」のほうが、同じベクトルでより怖い。どんどん「死」へ向かう恐怖をイヤというほど思い知らされる。死に無縁なフリをしている人が想像できる、"最も恐ろしい死の形"を覗き見ることができる(自分は生きながらね)。4061982346.jpg4334751091.jpg

4861521688.jpg チャンプ本ではないけれど、最も戦闘力の高かったのが、「着倒れ方丈記 HAPPY VICTIMS」、都築響一の写真集だ。良く言えばファッションマニア、悪く言えば服オタ、ブランドにハマって染まって貢いだ半生が、服・服・服の洪水で満たされた生活空間で語られる。ふつうの、マニアたちを写した一枚一枚が、痛くて切なくて、ちょっとあこがれる(その清清しいほどの潔さに!)。「トーキョースタイル TOKYO STYLE」の服版だね。

 ......しかしリアル書店は危険だ。本をオススメに行ったのに、帰ったときはこんなに買ってる...本マニアならぬビブリオマニアかもしれぬ。所有に拘泥しないから、読書マニア(もしくは読書狂)やね。

20110626__2.jpg

『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』 2011年6月28日 より

Dainさんプロフィール

1行紹介

涙腺が弱いことは自負しとりますよ、ええ。

自己紹介文

Dainと申します。

その本が面白いかどうか、読んでみないと分かりません。
しかし、気になる本をぜんぶ読んでいる時間もありません。
だから、私が惹きつけられる人がすすめる本を読みます。

基本的に、『読んだもの』の感想を書きます。

私が「面白いかも?」と思う作品と、皆さんの「面白い!」 という作品の、まざりぐあいを楽しんでみようと。

わたしの本の選び方・読み方については、

  本の探し方→[本を探すのではなく、人を探す]
  本の読み方→[本ばかり読んでるとバカになる]

を、どうぞ。

twitter始めました。
https://twitter.com/Dain_sugohon

100冊に絞ったスゴ本のリストは、[スゴ本100]

Dainさんがブログで紹介されている本

WORLD WAR Z

WORLD WAR Z

マックス・ブルックス、浜野アキオ / 文藝春秋
2010/04出版
ISBN : 9784163291406
価格:¥2,160(本体¥2,000)

本棚に登録 カートに入れる 店頭在庫検索 電子書籍はこちら

中国奥地で発生した謎の疫病。それがすべてのはじまりだった。高熱を発し、死亡したのちに甦る死者たち。中央アジア、ブラジル、南アフリカ...疫病は拡散し、やがてアウトブレイクする。アメリカ、ロシア、ドイツ、日本...死者の群れに世界は覆われてゆく。パニックが陸を覆い、海にあふれる。兵士、政治家、実業家、主婦、オタク、スパイ。文明が崩壊し、街が炎に包まれるなか、彼らはこの未曾有の危機をいかに戦ったのか?辛口で鳴るアメリカの出版業界紙「カーカス・レヴューズ」が星つきで絶賛、ニューヨークタイムズ・ベストセラー・リストにランクインしたフルスケールのパニック・スペクタクル。甦った死者の軍勢に、人類は滅亡の縁に! 日本、米国、南極......地球規模のスケールと息づまる緊迫感で圧倒するパニック・スリラー.(BookWeb書誌詳細より)

小さな本の数奇な運命

小さな本の数奇な運命

アンドレ-ア・ケルバ-ケル、望月紀子 / 晶文社
2004/02出版
ISBN : 9784794926616
価格:¥1,512(本体¥1,400)

本棚に登録 カートに入れる 店頭在庫検索 電子書籍はこちら

一冊の本が、古書店の片隅で買い手が現れるのを待っている。ヴァカンスまでに売れなければ廃棄処分、と宣告されて。ちょっと身につまされる本の独白。60年前、新刊書店に並んだときの晴れがましさ。初めて女性の手でページをめくられたとき。本棚の隣人たち。売れる本への嫉妬。リサイクルされて段ボールになる恐怖―。"ぼく"=本は生きていて、浮き沈みもあれば、感情もある。伝えたいこともいっぱいある。テレビ、コンピュータ、携帯電話が登場したショックも生きのびたんだ。まだまだやれるよ。(BookWeb書誌詳細より)

補陀落渡海記 井上靖短篇名作集

補陀落渡海記 井上靖短篇名作集

井上靖 / 講談社
2000/11出版
ISBN : 9784061982345
価格:¥1,404(本体¥1,300)

本棚に登録 カートに入れる 店頭在庫検索 電子書籍はこちら

熊野補陀落寺の代々の住職には、六十一歳の十一月に観音浄土をめざし生きながら海に出て往生を願う渡海上人の慣わしがあった。周囲から追い詰められ、逃れられない時を俟つ老いた住職金光坊の、死に向う恐怖と葛藤を記す表題作のほか「小磐梯」「グウドル氏の手套」「姨捨」「道」など、旺盛で多彩な創作活動を続けた著者が常に核としていた散文詩に隣接する人生の不可思議さ、奥深さを描く九篇。(BookWeb書誌詳細より)

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ

レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ、望月哲男 / 光文社
2006/10出版
ISBN : 9784334751098
価格:¥679(本体¥629)

本棚に登録 カートに入れる 店頭在庫検索 電子書籍はこちら

19世紀ロシアの一裁判官が、「死」と向かい合う過程で味わう心理的葛藤を鋭く描いた「イワン・イリイチの死」。社会的地位のある地主貴族の主人公が、嫉妬がもとで妻を刺し殺す―。作者の性と愛をめぐる長い葛藤が反映された「クロイツェル・ソナタ」。トルストイの後期中編2作品。(BookWeb書誌詳細より)

Happy  victims 着倒れ方丈記

Happy victims 着倒れ方丈記

都築響一 / 青幻舎
2008/11出版
ISBN : 9784861521683
価格:¥3,456(本体¥3,200)

本棚に登録 カートに入れる 店頭在庫検索 電子書籍はこちら

シャネル、グッチ、エルメス、マルジェラ・・・・・様々なブランドに覆われた部屋と収集品の累々を取材。食費を削ってでも収集したいというお気に入りブランド、ごく普通の生活と一流ブランドが混在する空間とこだわりの光景。「着倒れ人」たちの心の断片を綴ったテキストも興味をそそる。流行通信で、7年間に亘って連載された待望の書籍化!


2011.07.14 特集[TOP]  Fun! やってみよう シズル感 ゾンビ チャンプ ビブリオバトル プレゼン