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      『いわいさんちへようこそ!』刊行記念

佐藤雅彦×岩井俊雄トークイベント「表現することの原点、そして未来」
   
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 CM、映画、ゲーム、教育番組、小説とジャンルを超えて独自の活動を展開する佐藤雅彦さんと、観客が参加できるインタラクティブな作品で国際的に評価の高いメディアアーティスト岩井俊雄さん――子どもを対象にした作品も手がけ、〈教育〉ということにも意欲的なふたりの原点はどこにあり、未来にいったい何を見すえているのか? 岩井さんが愛娘とのものづくり生活を綴った『いわいさんちへようこそ!』の出版を機に、夢のコラボレーションが実現。たがいの仕事を尊敬しあうふたりならではの和やかな雰囲気が満員の会場を覆いました。               

岩井俊雄氏
 
佐藤雅彦氏
岩井俊雄氏
佐藤雅彦氏
(撮影・岡田卓士)
 
■「創造の現場」に立ち会うということ

岩井 みなさんこんばんは。今日は僕の『いわいさんちへようこそ!』の刊行記念トークイベントということで、この方にぜひと佐藤雅彦さんに来ていただきました。

佐藤 本日は呼んでいただき、どうもありがとうございました。

岩井 この本は僕が五歳になる娘ロカとおもちゃを手作りしながら新しい遊びを考えていく過程をまとめたものですが、その原点に僕自身の子ども時代があるんです。今回は「表現することの原点、そして未来」をタイトルに佐藤さんの創作の原点も伺っていければと思います。

佐藤 岩井さんとは以前、アニメーション学会でお互いの映像を上映しあったことがありましたよね。その時、たまたま会場から「お二人はレゴが好きですか」という質問が出たんです。基本的なパーツを組み立てるレゴは無限の可能性を持つおもちゃだから、二人とも子どものころからレゴが大好きで、レゴで発想が鍛えられたに違いない、という含みをもった質問でした。でも僕はレゴが苦手で、岩井さんもそう答えていた。

岩井 はい。家にも子ども用にレゴのセットがありますが、今ひとつのれないですね。

佐藤 その時、とても面白いなあと思ったのが、岩井さんが娘さんにレゴを作ってとせがまれた時の話です。「じゃあパパがすごいものを作ってあげる、何を作ろうか」と尋ねると、娘さんが「そうじゃなくて、これ作ってー」と答えて、パッケージにある宇宙船かなにかを指さした。世界のメディアアーティストの岩井俊雄ができあいの造形を作らされるわけです。「パパここ違うんじゃない」と言われながら(笑)。その時に岩井さんがね、「これじゃダメですよね」と言ったんですよ。「これからは娘と一緒におもちゃを作ろうと思っている」と。それが三年前のことです。そうしてボール紙の手作りおもちゃ、「リベットくん」が生まれたんですね。

岩井 パズルを解くように同じモノを作るのもひとつの楽しみ方だと思うのですが、家にあるバケツ一個二個分のレゴで何かを創造的に作ろうとするとやっぱり難しい。それにレゴはプラスチックの工業製品的なパーツですよね。「リベットくん」は自分たちでこうしてへたくそながらにも絵を描いて切り抜いていく過程を経たパーツで、そこから立ち上がってくるディテールは、レゴをただ単にはめているだけでは得られない、より細かなものがあると思っています。美しい木製の積み木を情操教育に良かれと買っても、子どもは見向きもしないという話をよく聞きます。立体的で抽象性のあるいいおもちゃだと思っても、子どもが本当にやりたいのは粘土や泥をぐしゃぐしゃと手で触ることだったりするんですよ。

「リベットくん」で遊ぶロカちゃん
「リベットくん」で遊ぶロカちゃん
岩井 パズルを解くように同じモノを作るのもひとつの楽しみ方だと思うのですが、家にあるバケツ一個二個分のレゴで何かを創造的に作ろうとするとやっぱり難しい。それにレゴはプラスチックの工業製品的なパーツですよね。「リベットくん」は自分たちでこうしてへたくそながらにも絵を描いて切り抜いていく過程を経たパーツで、そこから立ち上がってくるディテールは、レゴをただ単にはめているだけでは得られない、より細かなものがあると思っています。美しい木製の積み木を情操教育に良かれと買っても、子どもは見向きもしないという話をよく聞きます。立体的で抽象性のあるいいおもちゃだと思っても、子どもが本当にやりたいのは粘土や泥をぐしゃぐしゃと手で触ることだったりするんですよ。

佐藤 大人が勝手に考える理想のおもちゃ像ってありますね。

岩井 「リベットくん」は素材が紙なので、いくらでも応用が効くのがいいんです。意外と三次元のぬいぐるみより自由度が高い。動かすとカメが頭を出したり、ライオンの表情が変わったりと、簡単に加工できる。これを布や木で作るとなると何日もかかってしまう。子どものインスタントな欲望に応えるには、ギリギリの方法だと思います。

佐藤 今回、本を読ませていただいて、とてもいいなと思ったのは、岩井さんが娘さんを「創造の現場」に立ち会わせているということです。父親がモノを作り出す瞬間に立ち会うのは、子どもとして一番幸せなことだと思います。「リベットくん」を使って親子で遊んでいくうちに、こうしたら面白いんじゃないかと、ある瞬間にある「発明」が行われていますよね。
岩井 はじめは動物だけだったのが、そのうち車を作ってみよう、じゃあ車に乗ってピクニックに行こう、そうしたらおにぎりが必要だ、背景はどうしようと作っていくうちに、いつの間にか箱いっぱいに「リベットくん」ができあがっていたんです。

  最初は道具だけがあって、それがある形を持ちはじめる。今度はその形に性格付けがされて、最終的にストーリー作りという新たなプロセスがはじまる。「リベットくん」それぞれが物語を紡いでいくんです。その飛躍が毎回行われるんですね。はじめは見ていただけの娘が自分でも作りたいと言いはじめて、僕が驚くような発想のものを生み出したりする。自分がやってきたことが彼女に乗り移って次の段階にいくようで、すごく面白いんです。

佐藤 「創造の現場」に立ち会うことが、創造の訓練になっているんですね。子どもには「世の中は面白いことに満ち溢れている、そしてあなたはこの世界にとってもウェルカムなんですよ」と伝えてあげることが大切だと思います。岩井さんのところではロカちゃんがお蕎麦屋さんで退屈していると、その場にある箸袋やお箸から遊びが生まれていく。そこがいい。

岩井 子どもが退屈してしまった時にゲームを与えるのではなく、ゼロから生み出す面白さを伝えたいと思っています。今の子どもたちは「ムシキング」に夢中なんですね。僕には覚えきれないほど虫の名前を覚えていて、ちょっとした違いで見分けてしまう。そこでカード交換やテレビを観るだけでないところに、一歩踏み出してほしいんです。実際に虫を捕まえに行くのが一番かもしれないけど、僕は違った遊びの方法を示してあげたい。

  先日、家に遊びにきた子どもたちを前に僕が紙で虫や虫カゴを作っていると、みんな夢中になって作りはじめた。そこから、新しい遊びが生まれていく。だから親や大人の役割はきっかけを与えることだと思うんです。世の中のモノを受け入れるだけではなくて、自分の発想で作ったらもっと面白いよ、と。今回の本を端緒に、子どもが何かを生み出す奇跡のような瞬間が僕の家の外にも広がるといいなと願っています。

■「モノ作り」と「教育」の原点

岩井 講演タイトルにある「原点」の話をさせてください。嬉しくて今もはっきりと覚えているのですが、僕が五歳の誕生日の朝、目が覚めたら枕元に小学館の『昆虫の図鑑』が置いてあったんです。イラストがふんだんに入った図鑑で、この本から観察して絵を描く面白さを教わりました。もうひとつ、同じころに買ってもらった集英社の「なぜなぜ理科学習漫画」シリーズ。特に物理編の『光・音・熱の魔術師』は夢中になって読みました。影絵や写真機、鏡の仕組みが載っていて、図鑑と並んで僕のバイブルのような存在だったんです。

佐藤 この本はとてもうまくできていますね。

岩井 父親が理系畑だったこともあって、こういう本を与えてくれたのかもしれません。「大阪万博」でアポロ月着陸船や月の石を自分の目で見たことも今にすごく影響していると思います。

  そして一番大きかったのが、僕が小学三、四年生のころ、母が突然、「今日からおもちゃは買いません」宣言をしたことなんです。欲しかったら自分で作りなさいと材料と道具だけは与えてくれて、そこから本格的にモノを作りはじめた。そのころ自分で描いた「工作ブック」が残っています。自分で考えたモノと当時NHKの教育テレビで放映されていた「みんなの科学・楽しい実験室」で紹介されたモノが描いてある。

当時、ビデオがないので、忘れないようにと一生懸命描いたんです。例えばこの「人工バッタ」はその番組内で、昆虫学者の矢島稔さんが、工学系の方と一緒にバッタの動きをモーターで作るにはどうしたらいいかと何回もトライするんですね。改良されて、三号四号とできあがっていく過程をメモしてある。

佐藤 (頭上のモニターに映った「工作ブック」を見ながら)「済」って書いてあるのは何ですか? あれは作ったということ?
工作ブック
工作ブック
工作ブック
岩井 これは実験済みの「済」です(笑)。本当はスタンプが押したかったけど、なかったので手で書いた。

佐藤 じゃあ、この「寝ながらテレビを見るグラス」というのも実験済み?(笑)

岩井 そう。この絵はちょっと恥ずかしいなあ(笑)。こうして親や世の中の影響を受けて、自分で考えながら手を動かしてモノを作りたいという欲求が僕の中に生まれた。それが今の自分に繋がって、自分の子どもを目の前にして既成のおもちゃではないモノを作りはじめた原点にあるんですよ。佐藤さんにもぜひ創作の原点を伺いたいんですが、佐藤さんのお父さんは「深海生物館」の館長さんだったのですよね。

佐藤 亡くなる前の十数年間やってましたね。僕が育った静岡県の戸田村は、きれいな砂浜が続く砂嘴という地形の場所で、その突端に深海生物館があったんです。伊豆近海には海老や蟹を採るトロール漁船が出ていて、そこに時々「ラブカ」とか得体のしれない魚がかかる。

岩井 ラブカ?

佐藤 変わった形をした深海魚なんです。そういうのが獲れると、漁師さんが深海生物館館長の父のところに持ってくる。「館長」といっても担当は一人しかいないんですけど(笑)。事務の人がもう一人いるだけで。そうして持ち込まれたものに館長自ら筆で「ラブカ、何月何日どこどこ採取」と書くくらいのものです。

岩井 お父様はもともと何をされていた方なんですか。

佐藤 祖父が船大工で、父親も一時期、神戸で造船技師をしていたんです。駆逐艦「秋月」とかを設計していたらしい。僕は「秋月」が好きだったので、後年知って嬉しかったんですけど、やっぱり手先が器用で家でもなんでも作っていました。「伝馬船くらいなら図面引かなくてもできる」なんて言って。

僕は不器用なんですけどね。父はそのうち体を壊して、神戸から生まれ故郷の戸田に戻ってくる。その後の経歴は田舎だからか可笑しいのですが、まず若くして郵便局長になるんです。それからしばらくして小学校の先生に転身する(笑)。一度、幼稚園の園長先生にもなりました。それから深海生物館館長です。

岩井 館長をされていたのは佐藤さんがお幾つくらいの時ですか。

佐藤 そのころ僕は高校生で戸田を離れていました。今度は何をはじめたんだろうと、帰省すると遊びに行ったりしましたけど。

  最近思うのですが、僕にとっては母親の影響も大きかったのかもしれない。九十歳になる母は今も家庭菜園的な畑仕事をしているんですね。その畑で、ある年にすごく美味しい里芋ができたんです。親戚中で好評だった。ところが次の年になぜか別の品種の里芋を作るんです。しかも、明らかに味が落ちていた。

さすがにおかしいと「どうして」と聞いたら、「同じ品種で作っても面白くないから」と答えるんですよ。毎回新しいトライアルをしたい、と。つまり「実験」なんです。色々試してみて、失敗してもそれで構わない。家族としては、美味しければ良しとしてほしい。でも家族の意向は関係ないんです(笑)。

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