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本のできごころ 第4回


三浦しをん Shion Miura
   
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 オシャレな女性向けファッション雑誌などでは、必ず「インテリア特集」が組まれる。オシャレな有名人が、オシャレな自室を写真入りで公開し、その部屋にはオシャレなソファや雑貨がセンスよく配置されているのだ。

 前の段落だけで、「オシャレ」という単語を四回も使ってしまった。「オシャレな部屋」に居住する人々への、我が憎しみの強さの表れである。私は、雑誌の「インテリア特集」を読むたびに怒りに震える。美しく機能的な部屋の写真を眺めては、「こんな特集、私の部屋の模様替えの参考になど、ちっともなりゃしない!」と、近隣の家の屋根瓦がすべて吹っ飛ぶほどの大声で怒鳴る。

 そう、雑誌の「インテリア特集」に載っているような部屋には、たいてい本が全然ないのだ。同様のことは、「倹約生活特集」にも言える。「一カ月の携帯使用料が三万円、書籍購入費が三百二十円。私の生活のどこをどう改善したら、貯金が増えるでしょうか」って、片腹痛いわ! 私の一カ月の書籍購入費といったら! ……怖いから考えないようにしている。

 本(漫画)さえなければ、私の部屋は美しく機能的になり、私の貯金通帳はもうちょっと充実した数字の羅列になっていたことだろう。本というのは、気づいたらいつのまにか増殖しているものなのだ。「こいつら、夜中ひそかに、すごい勢いで子どもを生んでるんじゃないかな」と、たまに思うほど、私の部屋には本がはびこっている。

 本が一度増えてしまったら、あとはもうじたばたしてもどうしようもない。ハツカネズミのように、イナゴの群のように、やつらは部屋を侵食していく。私にできるのは、少しでも効率よく本を収納するにはどうすればいいか、頭を悩ませることぐらいだ。

 天井近くまで本棚(三列スライド式)が林立する、図書館のように広大な書庫。それを手に入れられれば、問題は一挙に解決だ。しかし忘れてはならないのは、ただでさえ少ない収入を、書籍購入にほとんど費やしてしまっているという事実。書庫……ふっ、そんなのは永遠に手に入らない夢のお菓子だ。

 狭い空間に、いかにコンパクトかつ探しやすいように本を収納するか。それがいまのところ、私が早急にクリアせねばならぬ課題なのである。

 本棚はとうの昔にいっぱい。本を捨てることには抵抗があるので、半年に一回は蔵書点検をして、もう読まないと思われるものを段ボールに箱詰めして古本屋に買い取ってもらう。しかしそれでも、大量の本が床にあふれだす。そんな状況を、はたしてどう打開すればいいのか。

 私の友人は、膨大な少女漫画コレクションを、百円ショップで買ってきたチャック付き透明ビニールケースにタイトルごとに入れて、部屋に積み上げているそうだ。たぶんそのビニールケースは、本来は旅行時の雑貨入れなどに使用されるべく、製造されたものだと思うのだが……。とにかく、この方法だと本に埃がつかず、しかも、どこに何があるのか一目瞭然なので、とても便利だそうだ。

 私はそこまで几帳面な性格ではないので、肩幅ほどの長さで本をまとめ、荷造り用のビニール紐で束ねて、床に積んでいる。限りある床面積を有効利用するため、積んだ本を家具がわりにも使う。

 本で家具を作るためには、かなり強固に束ねる必要がある。なるべく傷めないように、なおかつ焼き締めたレンガのブロックのごとき本の束を作るのは、なかなか至難の技だ。だが私は古本屋で働いていたので、それぐらいは朝飯前なのだ。パッパと本をまとめ、自由に持ち運びができる頑丈な束を作るとき、私は己れの練達の技にうっとりするのだった。

 こうして出来た本の束を用い、部屋のあちこちに山を築く。その山を家具に見立て、洋服置き場や靴箱置き場として利用する。ベッドの横にも同じ高さで本の束を積み上げていった結果、ダブルベッドが完成した。こんなに本(しかも、いかがわしい内容のもの多数)があるおかげで、だれも部屋に呼べないのに、ベッドだけはダブルだ。うわーい……。

 しかしこの方法だと、「あ、あれを読み返したい」と思ったときに、いちいち束をほどかねばならず、非常に面倒臭い。そのうち、束の中から目当ての一冊だけ抜き取るようになり、そうするとその束がゆるゆるになってしまい、だんだん本の山が崩壊してきて、家具としての役目を果たさなくなる。私はベッドで眠っていて、拡張した「ダブル」部分の本と一緒に床になだれ落ちた。

 私はもう、自室に秩序を求めることは半ば諦めている。どんなに知恵を絞って収納しても、本はそれ以上の速度で増えていくのだ。こうなったら部屋の床が抜けるまで、思う存分増殖するがいい。そんな、やけのやんぱちな気分である。

 ああ、私もオシャレな部屋に住みたい。だが、無理なのだ。本を愛してしまったからには、本の山の下敷きになって死ぬまで、狭くて埃っぽい部屋で彼らと生活をともにするしかないのだ。

 本の収納。それは本好きの人々に課せられた永遠の命題だ。みなさんはこの難問に、どう取り組んでおられるだろうか。

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