内容説明
「今日の私は聞き役です」
長篇小説の中心にいるのは美佐子という女性。
中心、というのは登場の頻度が最も高く、
彼女の視点が基本のトーンになっている、ということで
実は美佐子がこの小説の中では最も静かな存在である。
彼女は多くの人と会い、ほとんどの場合、聞き手に回る。
彼女ほど話しやすく、聡明で、気持ちの良い相手はいない。
そうして人の話をすべて親身になって聞きながら
彼女は時折、プールに入って泳ぎ、コーヒーを飲み、手紙を書く。
光のあたったプールにできるのは自分の影。
影はいつだって冷静で、その影を彼女は愛している。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/
目次
一章 プールに降る雨
二章 素足で小川をわたる
三章 一杯のコーヒーから
四章 花嫁が語る、花嫁の父も語る
五章 私は潮騒からはじまった
六章 自分の花をみつけた
七章 神の子はすべてリズム
八章 あの影を愛した
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chiru
53
片岡義男さんの本にはまっていた当時、一番好きだった本。バイクに乗るクールな男性がかっこよくて『彼のオートバイ彼女の島』から始まってたくさん読んでた。 この本で意外だったのはトンネル玉突き事故に遭遇するシーンがあったこと。 バイクじゃなく車にいて巻き込まれるところは鳥肌級に恐かったし、冷静でなくては助からないと思った印象深い作品。 まだ実家に置いてあるので、今度読み返そうと思う。★52018/01/27
マッサー
18
独特な世界観。描写がきれいすぎて、男性作家の作品とは思えない。❗️❕❕❕❕2019/03/31
カニ
13
『ドアのなかは喫茶店だった。コーヒー豆の選定と焙煎、そしてコーヒーのいれかたと最終的な味に関して、厳密さをきわめていることで知られた店だった。』今はなき“大坊珈琲店”をイメージした描写とのことです♪『片岡本』はやっぱりコーヒーが似合いますね☆2016/12/09
りんご
3
角川文庫の片岡さんと少し違った雰囲気 それは時代が進んだせいか・・・2022/01/20
たくみ
0
主人公の心象を、連作の短編っぽく綴っている。「一杯のコーヒーから」が片岡義男っぽくなくて逆にいい。最後の2作は今で言う「LGBT」の一般化を予見しているようにも読めるが、ちょっと、まだまだ綺麗すぎる。早すぎるか。2016/08/19