内容説明
「人間に本能なんかないよ」――死んだ友。その妻と娘と性交するぼく。あいまいな記憶。生者と死者が睦み合う、心地良くも危険なパレードがはじまる。存在することの根本を問いかける著者渾身の長篇小説。
「どのひともここへはまっすぐたどりつかれへん」
「長谷川が死んだらしいで」
「いうてみてよ。わたしとセックスしたんいつどこでよ」
「人間に本能なんかないよ」
「猫は死んだら大きな虎になるんや」
「あんたすぐそうやって男のこと好きになるよな」
「お母さん、武藤としたん??」
(本文より抜粋)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
散文の詞
87
ころころ変わる場面、色々な登場人物、脈略のありそうもない展開。 これ、どんな話なんだろうと思いながら、中盤ぐらいまで読んで、 最初に読んだところが気になって読み直して、なんとなく気がついた。 走馬灯なんだ。 そう思って読みだすと、これを理解するよりも主人公の生きた証みたいなものを感じれればいいのかな。 その割には、終わり方がイマイチな感じだった。 2020/04/15
nbhd
16
たまげた、今でもまだ新しい文体に挑戦する日本文学があるのだなぁ、と正直おどろいた。ぼくの感触では「幽霊が書いたような文体」とか「(差別的な意味じゃなく)脳の一部を切除したような頭で書いたような文体」とかだ。「理性」は時間や空間を区切って記憶を収納して、体よく出し入れしているのだろうけど、瞬間瞬間の「脳みそ自体」は揺らぎつづける山下さんの文体のようなものなんじゃないかと、思えてくる。だから、物語はよくわからないし、長いし、読みにくい。でも時折、切実に、痛切にとびこんでくる言葉があったりするのもほんとうだ。2017/06/16
ぽち
11
どうにもこうにも、「しんせかい」で山下さんを見切ったような感想が多くてやりきれない。すくなくとも読書好きを自認している方が、この本を読まないまま時間が過ぎていくことがどうにもガマンできない。最初の感想でタイトルが行き過ぎていてすげえ!的なことを書いているけど、英訳すればすんなり分かることだったんだなあ。break through!!とかいってわかったような気になったり、読後の感想などフェイク千万。できることなら死ぬまで壁抜けし続けていたいものです。2017/05/04
ぽち
11
傑作。もう一冊の近刊「しんせかい」はまだ未読だけど、これは芥川賞候補になるのでは(中央公論新社から!しかも掲載されたのが探しても探してもなかなか出会えない「アンデル 小さな文芸誌」!)。ラストのほうで収束していく感じは少し残念な気もしたけど、賞的にはそのほうがいいのかな?あと、ダウンタウンの松っちゃんに期待していた映画って、こんな感じだったんだなあ、と読みながら思った。たぶん作中で死が言及されているのは一人だけなのだけど、読み進めていくにつれ、みんな死んでいるような、そんな感じになっていく。2016/11/05
Yui.M
11
2か所ほど(いやもっと多いかも)自己というものを哲学的に語る部分があって、ぼくの話すこと、記憶していることすべてに自信がないんだ、というところと、「わたし」の存在についての疑問をぶつけるところに、この作品の意味を描いているのではないかなどと思った。すなわち、この作品は存在すら危ういものだということ?山下澄人は、小説家ではなくて舞台作家だろうな。2016/10/06