内容説明
生体通信によって個々人の認知や感情を人類全体で共有できる技術“自己相”が普及した未来社会。共和制アメリカ軍はその管理を逃れる者を“難民”と呼んで弾圧していた。軍と難民の間で揺れる軍属の人類学者シズマ・サイモンは、訪れたアンデスで謎の少女と巡り合う。黄金郷から来たという彼女の出自に隠された、人類史を鮮血に染める自己相の真実とは? クラウド時代の民族学が想像力を更新する、2010年代SFの最前線。第2回ハヤカワSFコンテスト受賞後第1作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
金城 雅大(きんじょう まさひろ)
28
ストーリー展開はほぼラピュタ。後半の息もつかせぬアクション描写は、とてもアニメ映えしそうだ。クライマックスの問答の中で文化の一意義を垣間見た。 ただ、前半でシズマがヒユラミールに執着する動機がイマイチはっきりしなかったり場面転換が性急だったりと、惹き込んで読ませる力はまだまだ発展途上かと思う。ラノベ文体は個人的には苦手だが、そこは個々の嗜好か。同年代の作家みたいなので、今後更に伸びていってほしい。2018/02/28
ソラ
25
伊藤計劃トリビュートに載ってて気になっていた作品。ニルヤも良かったけれどこちらも良かった。だんだんと主人公も壊れていって結末も予想に反してあらまぁという感じ。ただ、一つに気になったのは主人公がことあるごとに日本人とかそういうことを意識したり言ったりするのだけれどあんまりそれって関係なくない?とか思ってしまう2016/04/17
ぶるっちゃ
18
所謂「伊藤計劃以降」の集大成の様な作品。人類やその意識に深く切り込む内容は正に虐殺器官、そしてハーモニーを継承しているのは明らかだけど、それを伊藤作品に対する真摯な回答と捉えるか、いつまでも伊藤計劃の幻影を追いかけていると捉えるかで評価は分かれそうですね。民族学とか人類学のガジェットを上手く使ってるのは作者の色が出ていてよかったと思います。欲を言えば、伊藤作品が提示した未来をひっくり返すような終わり方をしてくれればもっと良かった。2016/07/16
ぎん
15
生体通信によって個々人の認知や感情を人類全体で共有できる技術“自己相"が普及した未来社会。『虐殺器官』や『ハーモニー』を彷彿とさせるというコメントが多いが、個人的には『The Indifference Engine』から着想を得たように感じた。個人の意思は、総体としての自己という水瓶から汲まれた一滴であり、個人の意識は文明と文化の中に生まれるという。未来への認知の不確実性が人間らしさを形成するのならそれを克服することは正義か。「今よ、未だ知られざる今よ、そこに至るものは運命などではなく」2016/06/04
サケ太
14
面白かった。良い意味で軽く、読みやすいSF。“自己相”という個々人の認知や感情を共有できる技術が普及した世界。共和制アメリカ軍による難民に対する弾圧に疑問を感じる軍属の人類学者シズマ・サイモン。謎の少女との出会いから、人類に平和をもたらしたはずの自己相の真実に迫ることになる。面白い世界観に引き込まれ、スラスラと読める。迷い、疑惑、脱走、裏切り、決別、選択。「未知であるからこそ、人は想像する、人は殺す、人は生きる」2016/04/06