内容説明
「藪入りには帰っておいで。待ってるからね」母の言葉を胸に刻み、料理茶屋「橘屋」へ奉公に出たおふく。下働きを始めたおふくを、仲居頭のお多代は厳しく躾ける。涙を堪えながら立ち働く少女の内には、幼馴染の正次(しょうじ)にかけられたある言葉があったが――。江戸深川に生きる庶民の哀しみと矜持を描いた人情絵巻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
91
面白かったです。江戸の情と絆が感じられます。料理茶屋「橘屋」に奉公に出、下働きをするおふくの成長物語。女性ならではの生きづらい時代に懸命に立ち向かう姿が苦しいけれどたくましかったです。そんな強さに惹かれました。感謝しながら、幸せだと感じながら日々働くおふく。まわりの人たちも打たれつつも、立ち上がり歩む。そんな姿が心に響く作品でした。2016/09/29
佐々陽太朗(K.Tsubota)
78
貧乏も空腹も茶飯のことであり、身体の一部のように一生背負っていくしかない境遇にあってなお、凜とした矜持を胸に秘め生きている市井の人を描いた短編連作。裕福な食通が通いつめる橘屋という料理茶屋。そこで働く使用人は店で供される料理など一生口にすることはない。しかし、橘屋のもてなしは客の富みへのおもねりや卑屈さではない。心を込めたもてなしは「人の値打ちは金で決まるものではない」という矜持があってこそだろう。現実が厳しくとも明日を信じて頑張ろうと心から思える読後感が心地よい。読んで良かった。心からそう思う。2013/12/29
BlueBerry
48
結構、不遇な話が多いのでその点は読んでいてストレスが大きかった。それぞれの話でラストは救われるのでホッと出来るのですけどね。気楽な話が好きなのでちょっときつかったかな。2013/11/17
Mark
44
様々な苦境のなか、けっして挫けずひたすら努力する姿。人と人の息遣い、義理人情、矜持、いろいろな想いが交差する、その中で何とか生きていこうとするおふくの姿に涙がじわっと出てきてしまいます。お多代の厳しくも人情味のある生き様、この橘屋に来ることになった人達の繋がり、そしておふくへと受け継がれるお多代の荷物。最後のくだりは涙がほろほろと零れてしまいました。切なさ、儚さでいっぱいになるけれども、それ以上に明日への期待感を感じることのできるいいお話でした。2014/03/15
moonlight
39
深川の料理茶屋「橘屋」で働く女たちの物語。帰る家もない少女おふくの成長と仲居頭のお多代を中心に連作短編が紡がれる。厳しくてもここぞという時には奉公人を守るお多代の人柄が魅力的。橘屋の真っ当な商いは江戸時代のお仕事小説としての魅力もあり、とてもよかった。2020/12/07