岩波科学ライブラリー 仲間とかかわる心の進化 - チンパンジーの社会的知性

著者名：平田聡

岩波書店（2015/10発売）

• ISBN：9784000296144

内容説明

仲間と協力する．仲間をあざむく．高度な知性をもったがために，心の病を患う可能性すらあるチンパンジー．その社会的知性は進化の産物で本能に支えられてはいるけれども，年長者や他の子どもとのつきあいの中で経験と学習をしなければ育たない．かれらの知性の柔軟さともろさは私たち人間に何を教えてくれるのだろう．

目次

目　　次
　　　はじめに

　１　協力とあざむき
　　　協力するのは人間だけ？／一緒にやろうとしないふたり／そうだ、自分が協力相手になろう／相手に合わせる、相手を誘う／実験は成功したが、石が重すぎる／ついにチンパンジー同士が協力／仲の良いもの同士は協力が成功しやすい／ボノボ、カラス、ゾウはどうか／これは「協力」なのか／人間は、同じ意図をもち、相手のために協力する／宝探しゲーム／先回り、あざむき、あざむき対抗策／あざむくとき何を考えているのか／チンパンジーは「誤った信念」を理解しているか
　２　親から学ぶ、仲間から学ぶ
　　　道具使用と社会的学習／初心者が熟達者から学ぶ／使い残し道具を利用する／母から子へ／見て学ぶ／教えない母親／大人と同じことをしたい／アイデンティフィケーション／道具使用の最年少記録／環境によって能力が早期に開花する
　３　他者を理解する
　　　視線から心をのぞく／物ばかり見るチンパンジー、顔と物を見比べる人間／三項関係／人間は心理学者、チンパンジーは物理学者／写真ならば目をよく見る／脳波を測る／人間と同じ脳波が検出できた／自分の名前に対する反応／チンパンジーの感情／感情的な写真を見たときの脳波／共　感
　４　生まれる前から
　　　４Ｄエコーでお腹の赤ちゃんを見る／練習を重ね、ついに見えた！／お腹の赤ちゃんの様子／脳の発達／チンパンジーの出産／出産時の赤ちゃんの顔の向き
　５　母　性──本能と経験と
　　　ある朝の異変／ミサキの赤ちゃんがミズキに奪われた？／ハツカを抱こうとしないミサキ／育児放棄／産後の抑うつ／ロイの攻撃と仲間意識／加害者の心の傷／再び事件が
　６　社会的知性はどう育つ
　　　野生チンパンジーを見にアフリカの森へ／森に根差した暮らし／環境によって違うこと、変わらないこと／野生チンパンジーの暮らし／野生チンパンジーの社会／子育ての練習／チンパンジーを見て人間を考える
　　　おわりに

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

[calaf]

最近は、チンパンジーも出産前検診をするのですねぇ... (ぇ？違う？ (^_^;;;)

2014/01/16

[Uzundk]

人の高度な知性は仲間と関わる「社会的知性」が原動力となって発達したという仮説から、動物たちの社会的知性を研究することで人間の心を理解しようという試み。他人と協力する、共感する、他者のシグナルを理解し、知識を学び、道具の使い方を覚える。これらは人間特有なのか?　ここでは主にチンパンジーを対象に実験を行っている。協力すると言う概念を学習によって身につける様子や、大人と同じ事をしたいという動機をもとに技能を真似ていく様子がここでは描かれている。人間も協力するのは文化的な背景が多くを占めるのかも知れない。

2015/06/21

[marukuso]

平田メソッドと呼ばれるほど霊長類研究ではその実験手法が画期的だったようだ。チンパンジーやボノボといったヒト近縁種の行動、認知の研究は、ヒトは決して特殊ではなく、他の生物と地続きの知性を持っており、より発展させてきたということを感じさせる。

2023/02/10

[takao]

☆人の胎児は出産直前まで大きくなるが、チンパンジーは妊娠中期と止まる。 ☆チンパンジーは感情はあるが、物に注目する。

2019/10/26

[鈴]

チンパンジーの社会的知性の研究。アイトラッカー使ったり、超音波画像診断装置使ったり、なるほど現生の霊長類研究なら、工夫は必要にしろヒトに対して使う道具が使えるのね。ロイという雄の話が印象に残った。まだ幼いチンパンジーの態度に反射的に攻撃を加え骨折させた。その後会わせると加害者なのに怯えを示してから攻撃的な誇示行動にうつる。回数を重ねて落ち着いたかに見えたとき、二度目の事件が。……ああ、こういうどうしようもないの、人間にもいるなあと思った。

2013/11/02