内容説明
ひとつの家族となるべく、東京郊外の一軒家に移り住んだ二組の親子。それは幸せな人生作りの、完璧な再出発かと思われた。しかし、落雷とともに訪れた長男の死をきっかけに、母がアルコール依存症となり、一家の姿は激変する。「人生よ、私を楽しませてくれてありがとう」。絶望から再生した温かい家族たちが語りだす、喪失から始まる愛惜の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ショースケ
160
連れ子同士の再婚でギクシャクしながらも幸せだった澄川家。母が溺愛していた長男が、不慮の事故で死んでしまう。それ以来母はアルコール依存症となり、澄川家に暗雲が立ち込める。それぞれの兄弟たちの立場から物語は成り立ち、あぁそうだったのかと驚いたり、納得したり。人間は早かれ遅かれいつかは死ぬ。だからこそ早く死んだ者への愛情や、なんでという怒り。その人間が良き者であればある程、残された者の苦悩や悲しみ、前に進めないもどかしさ。最後はうーんと唸らされた。読めてよかったと思える一冊。2021/12/02
絹恵
53
死してなお与え続ける兄と、生きながら壊し続ける母のあいだで、揺らぎながら求め続けたものがありました。無関心で殺してしまったり、構い過ぎて殺してしまったり、誰かを傷つけずに生きていくことは出来ません。でも失ったものを取り戻す方法がなかったとしても、壊したものを治す方法はあると信じています。それは明日の自分と大切な人たちを諦めるのではなく、糾弾されることを望むのではなく、赦していくことが愛を受け容れ続けることなのだと思います。2015/08/09
Mayumi Hoshino
51
「失ったものは、幸福を留めるための重要なねじだった」。再婚同士の夫婦とそれぞれの子供たち、夫婦の間の子供という構成の家族が、〈息子(兄)の落雷による突然死〉という喪失に、それぞれに付き合っていくストーリー。息子を何よりも愛していた母は、いつしかアルコール中毒に。あらすじを雑に説明すればこうなるけど、それぞれの心の動きの描写が、行間から漂う匂いが、文体や言葉選びのセンスが、素晴らしいんです。これは是非読んで体感していただきたい。詠美さんの書くもの好きだなあと、改めて思いました。2017/01/26
masa
43
幸いにして私には大切な人の死によって、世界の色がすっかり変わってしまう程の経験をしたことがない。突然か否かは別にして人は必ず死ぬことを頭では理解しながらも、普段は大切な人が居ることを前提に生活している。どうか死にませんようにと祈らねばならない人がいるから生活に深みが出ると思うし、失うかもしれないと思うだけで、愛しさのあまり涙が湧いてくる。普段抱かない感情に気付かされた一冊となった。151522015/09/27
kana
41
人はいつか死ぬ。もしそれが明日訪れたとしても早いか遅いかの違いに過ぎない。ありふれた真実。だからといってその真実をどんなに言い聞かせても大切な人を喪った苦しみは1ミリも癒えることはない。血の繋がらない少し歪なファミリーの太陽のような存在だった兄の若すぎる死もそれぞれの心に突き刺さり、家族の幸せを蝕んでいきます。山田詠美さんの艶のある文体で描かれる家族の死のしんどさは、時間が解決してくれない。家族全員の生き方に深い影響を与える。でもそれ故に家族一人一人の生き様に、人生観に、心を鷲掴みされる作品でした。2020/12/04