内容説明
弾いている私の手首の下に尖った鉛筆が近づく――。優しいピアノ教師が見せた一瞬の狂気「アウトサイド」、カーテンの膨らみで広がる妄想「私は名前で呼んでる」、ボディビルにのめりこむ主婦の隠された想い「哀しみのウェイトトレーニー」他13編。キュートでブラック、しかもユーモラス。異才を放つ著者初の短編集にして、大江健三郎賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
368
13の掌編からなる「奇妙な味」(大江健三郎)の小説集。いずれの小説も安部公房をもっと明るくしたようなタッチだ。安部公房には突き抜けたような明るさと、奇妙な暗さとが同居するが、こちらはひたすら能天気なくらいに明るい。そして、その明るさの背後には「滅び」とメタモルフォーゼへの願望が潜んでいる。ここではない何処か、今の自分ではない自分。ただ、変身したい、変身したくない、はアンビヴァレンツな思いでもある。彼女はここから何処に向かうのかはわからないが、大江のいう「希望の気配のある小説」であることは確かなようだ。2017/06/28
優希
98
大江健三郎賞受賞作。ブラックな味わいの短編集。とても可愛らしいのに奇妙だというアンバランスが面白かったです。つかみどころのないエピソードの数々でありながら引き込まれました。この味わい、好きかもしれません。2018/01/12
hit4papa
87
奇妙な味わいのお話し13作品が収められた短編集です。ファンタジーとも違うし怪異譚とも違う。ホントと言われれば、そうかもとなるウソ話が近いでしょうか。この手の作品は、結末がもやっとして、イラっとなる場合が多いのだけれど、本作品集は愉しめました。ピアノ教師の暴走「アウトサイド」、ボディビルに執念を燃やす主婦「哀しみのウェイトトレーニー」、彼女から決闘を申し込まれた男「彼女たち」他。「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」は、くすっとなるタイトルの長さです。【大江健三郎賞】2018/09/04
つねじろう
81
そうこれはねえ不思議の世界。高校時代筒井康隆の「にぎやかな未来」を読んで以来の衝撃。いやあこれは一本取られましたなあと余裕かましてる場合じゃない。こちらの全く予想しない所へ飛んでって降りちゃ来れないだろうと高を括っていても見事に絶妙な位置に着地するからちょとファンになりそうになる。その自由さはシュールとかエッジが効いてるとかの表現ででひと括りに出来ない跳躍力破壊力がある。で毒もあるし愛嬌もあるからとっても気に入ってしまった。解説で大江健三郎もちょとムキになってた。多分その若い才能の翼に嫉妬したのだと思う。2015/06/03
dr2006
65
本谷さんの作品は相変わらず、社会観と人間観の表現にエッジがきいている。エッセイ向きの小ネタを本谷さんが小説にしたらこう弾けるのだ、ということがわかる。いくつかの短編は奇想天外な展開によって、シュールとブラックが激しく化学反応して、どこかに掴っていないと幻覚を見そうになる。バラエティに富んだ13篇に連続性がないうえに、エンディングが放置される作品もあるが、夢の余韻と解釈すれば和解できる(笑)。「アウトサイド」と「いかにして私が・・・」が面白かった。2016/12/11