内容説明
【第38回すばる文学賞受賞作】父と二人で出かけた七歳の誕生日旅行。「サイモン」という人物を想像するゲームで一緒に遊んだあと、父が船上から姿を消し、ぼくはたったひとり、夜の海に取り残された。湖のある小さな町で暮らす伯父のもとに引き取られたぼくは、大学卒業後に港町に出て、水産物加工場で働きはじめる。楽しみは週に一度のアイスホッケー観戦だった。二十代最後の年にぼくは偶然、サイモンそっくりの人物と遭遇。やがて、中古車販売を営む「サイモン」のもとへ週末ごとに通い、ガレージで過ごすようになっていく。だがある夜、突然「サイモン」が、ぼくと父しか知らないはずの言葉を口にして――。時間と空間を自在に交差させながら、喪失の果ての光を繊細に描き出す、新しい才能の誕生。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
48
過去・現在・幻想を行き来する世界が美しかったです。散文詩を読んでいるのではないかと思う空気感がありました。2021/03/25
風眠
47
どこか架空の国のようなファンタジックな世界観。登場人物の中でただ一人、名前がある「サイモン」。私はこのサイモンの存在が、なぜだか怖い。父と船旅に出た七歳の「ぼく」。船の甲板で父と遊んだゲームに出てきた男、それがサイモン。その船旅の途中で父は忽然と姿を消す。伯父に引き取られた「ぼく」は大人になり、あの日のゲームに出てきたサイモンと出会う。父と「ぼく」しか知らないはずの言葉を語るサイモン。夢と現のあわいを行き来きし、父を失った悲しみを受け止めていく「ぼく」の心。水の余韻が美しく広がる「The純文学」な物語。2015/10/09
九月猫
38
物語(文学)に遠近感というのは適当ではないかもしれないが、なんとも遠近感の掴めない作品だった。国も時代も定かでない。「」で括られる会話文はほとんどなく、登場人物の名前はサイモン以外出てこない。そのサイモンは存在自体が定かではない。なのに車はすべて実在の名前で出てきて、またも遠近感があやふやに。現在と過去、夢と現実が交錯して幻想小説の味わいも。父とサイモンの顛末に関しては手品師にネタをバラされたような気持になったので、いっそ幻想小説ならよかったのに。もの悲しさと淡い光を感じる不思議な読み心地だった。2015/02/17
coco夏ko10角
27
第38回すばる文学賞受賞作品。不思議な雰囲気というか、作品世界全体が膜で覆われていているような感じ。2015/03/08
あっちゃん
25
集中して読まないと、とりとめの無い展開に置いてきぼりにされる!北欧っぽいイメージの場所で日本人には馴染みのない感じ!もう少しで、いとうしんじって感じもする(笑)好みが分かれそう!2015/03/12