内容説明
修善寺から下田行のバスに乗り、季節はずれで客もない温泉場をいくつも抜け、湯が島を越す……。若い頃、放埒がもとで妻子と別れた、芝居の裏方の録太郎は、若い役者啓三と一泊旅行。病弱の録太郎に若者のような明日はない。来し方行く末に想いを馳せながら、録太郎は最後の煙草に火をつけた……。表題作ほか池波文学の原点ともいうべき気迫に満ちた初期短編6編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HIRO1970
100
⭐️⭐️⭐️⭐️本年144冊目。池波さんが直木賞受賞前の30代初めの新進気鋭作家で二足のわらじで大衆小説を書いていた頃の超レアなめっけもんの秀作短編集でした。正ちゃんは私の心のメンターの一人ですが、今まで読んだ140冊の既読本では一度もお目に掛かっていない作品ばかりで噛みしめるように咀嚼して味わって読みました。正ちゃんの私小説とも言える作品が目白押しで60年近く時を経ていますが色褪せない魅力を堪能しました。読書の醍醐味は141冊目でもまだまだあるものですね。池波さんフリークの上級者にはオススメします。2015/12/17
タツ フカガワ
38
収録の6話はごく初期(昭和30~33年)の作品で、すべて現代小説。これが面白かった。池波さん自身がモデルのような「キリンと蟇」や、のちの池波作品を想起させる「猫と香水」もよかったが、一番印象に残ったのは「太鼓(ドラム)」という一編。跡を継ぐはずだった有名洋食店の一人娘がジャズドラマーと結婚すると言い出した。大反対の母親はある日そっと舞台を見に行く。ステージで繰り広げられるドラム・ソロ。その演奏描写がとても熱かった! 2022/02/21
Book Lover Mr.Garakuta
11
池波正太郎初期の作品。、現(近)代物短編集、面白い作品だ。読み処:麺好きなので、狐饂飩が読みやすく面白かった。他の作品も、面白い。2019/04/07
ワッピー
5
池波正太郎の初期作品集。「天城峠」「太鼓(ドラム)」「狐饂飩」「キリンと蟇)「自衛隊ジェット・パイロット」「猫と香水」の6編を収録。いずれも、現代を舞台として人の情が動くさまをに鮮やかに描き出しています。当時の最新テクノロジーを描いた「自衛隊ジェット・パイロット」においても、やはり情を中心に飛行に命を懸ける男たちと、その家族の心理を細やかに描写。後年の時代物にも通じる人情世界はこの時から確立されていたように感じました。2017/09/05
Ohno Takeshi
4
修善寺駅の近くの本屋で、伊豆を描いた小説を特集していたので、帰りの暇つぶしにと購入。池波正太郎の両親への想いが録太郎を通じて伝わってくる。池波正太郎の死生観が表現されている隠れた名作だと思います。2020/02/15