内容説明
路地を一人歩いていると、いつか来たことがあるような気がしてくる。何にもドラマがおこらない旅だけど、その瞬間、「行く旅」は「帰る旅」にかわってしまうのだ。鄙びた温泉、すがれた港町、下町はつかれた都市生活者をいやしてくれる隠れ里。だから今日も、既視感―デジャ・ヴュ―をさがして感傷小旅行―センチンタル・ジャーニー―に出かけたくなる!
目次
小旅行記(ちょっとそこまで)
温泉紀行(知床秘湯めぐりの旅;壁湯岳の湯一人旅;町内散歩者のはかない夢―つげ義春について)
下町散策(東京の下町、ニューヨークの下町;谷中周辺悠遊記;入谷の朝顔市;人形町ウィークエンド;麻布の温泉;『隅田川暮色』そのほか;グリーン・ウォッチングの楽しみ;東京の「隠れ里」;「埋立地」への旅;「ガード下」の町、有楽町;変貌する街、東京)
異邦の旅(ブダペストの五日間;インド洋の城塞の島、ニアス島)
旅の贅沢(おいしいものが食べたくて;温泉という名の桃源境;道南の秘湯めぐり)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ホークス
30
1980年代のエッセイ。鄙びた湯治場や秘湯を含む温泉旅の数々が面白い。40代の著者は平気でヒッチハイクし、民宿にふらりと泊まり、廃れた映画館やストリップに入る。まだ戦争経験者が幅を利かす、野蛮と人情が表裏をなす時代だ。群れる事に馴染めず、つげ義春的逃避趣味に憧れる著者の鬱屈が痛い程分かる。後半の東京論にもそれを感じる。東京は中規模の町がどこまでも散在し、それが都市の良さ(匿名性、充実した孤独)になっていると言うのだ。賛同する、というよりそうであって欲しいと思う。2017/11/23
hitsuji023
2
タイトルどおり、その辺を散歩するような感じの本。読んでいると、仕事が休みの日にふらっとどこかに出かけたくなる。旅だけではなく、つげ義春についての考察も面白い。のんきなひとり旅好きにおすすめな本。2021/03/28
Yasutaka Nishimoto
1
東京・下町の街歩きから、鄙びた温泉巡り、また海外に出かけてもその視線は普段の街歩きと変わらない。車を持たない著者が、1980年代に旅した各地、その文章は新鮮でいま読んでも色褪せない。2017/11/26
uchi93
0
川本さんの街歩きエッセイが好きです。この本は古本屋で見つけました。「ちょっとそこまで」感覚の旅って素敵ですね。ローカル線であてもなくふらっと降りるなんてできれば最高だけど、ローカル線は列車本数が少ないから次の列車がいつ来るかこわくてできない。2015/04/17
まさやん80
0
旅、温泉について書かれた川本三郎さんのエッセイ。まさにタイトル通り、「ちょっとそこまで」という感覚で川本さんは一人旅をする。行き先は、ローカル線の駅だったり、鄙びた温泉だったり、東京の下町だったりする。男にとっては目的のない旅というのは憧れだが、なかなか実践できない。どうしても観光もしてしまう。そういう意味では、川本さんの勝手気ままな旅のエッセイを読むことで、再び憧れを掻き立てるというのが、僕ら凡人の楽しみだろう。今度、東京に転勤になるので、東京の下町を歩いてみたいなあ。2013/03/29