内容説明
ずっと乳児院で育てられた彼は、親に無条件で抱きしめられ、信頼して甘えるという体験を知らなかった。それどころか、保母からの虐待やいじめを受け続けていた。1983年に発生した「女子大生暴行殺人事件」の少年犯の生い立ちを追跡。
目次
第1章 高裁八〇三号法廷
第2章 甘えが封殺されて
第3章 養護施設の日々
第4章 不信と孤立のなかで
第5章 一審判決
第6章 人となる日に
第7章 社会が裁かれるとき
著者等紹介
横川和夫[ヨコカワカズオ]
1937年、小樽市生まれ。60年、共同通信社入社。72年に文部省(現文科省)を担当して学校教育のあり方に疑問を感じ、教育問題、学校や家庭から疎外された少年少女、さらには家族の問題を中心に、日本社会の矛盾が表出する現場を一貫して追い続けてきた。論説兼編集委員を経て現在はフリー・ジャーナリスト。著書「仮面の家=先生夫婦はなぜ息子を殺したのか=」(共同通信社刊)で93年度日本新聞協会賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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扉のこちら側
80
2017年42冊め。共同通信社、新潮文庫と出版され、2012年に再度共同通信社から単行本化されたシリーズの1作め。先に2作目の『かげろうの家 女子高生監禁殺人事件』を読了し、シリーズで読んでみることにした。著者は今ならばタイトルを『虐待のカルテ』とすると語るが、被虐待児が加害少年へと変貌する過程での養護施設でのリンチは残酷だった。『かげろうの家』の感想での書いたが、人との関係構築ができない少年による性犯罪に関心が出てきたので、今年はこのテーマで1本は論文を書こうと思う。2017/01/15
まめねこ
6
非常に興味深くて、読んで良かった。そして誰もが見逃してはいけない問題だと思った。虐待を受けて育った結果、犯罪に走る。でも、悪いのは本人だけの責任ではない理由が描かれていて、理解は出来たが、被害者のことを考えると、認めたくはないと思う。ただ、少年本人には、どうしようもなかった現実が悲しくて、虐待とは違う形で、少年と同じような人間が育ってしまう可能性があることに不安になった。きちんと、自分は育っているのか、自分の子供は育てられるのか…考える機会を得られて良かった。 2017/03/11
Aoi\(*ˊᗜˋ*)/
4
図書館本だけど登録と違う本。恐らく初版本。少年達が描いた自画像がなかにあった。様々なルポ読んできて、一番悲しい可愛そうな罪人。育つ環境で犯罪に走ることが多い。この少年は愛情を全く受けずに施設などで虐められながら育った。手を差し伸べる人がいない。優しさを温かさを知らない。時代が違っても子育てはそんなに変わらないなと思う。施設で育ったって愛情を受けられる筈なのに。救われてほしかった。今この少年はどんな大人になっているんだろう。2016/08/31
りい
2
本書では、乳幼児期からの子供の心の形成にかかせない母とのつながりがその子供の一生に関わる重要なことだと改めて痛切に感じた。「確かな人間関係があってこそ、そこから一人立ちすることができる。いまは親子関係ができていないのに、子どもの自立をあせる親が多い。自立といわれても、子どもは何から自立していいかわからない。飛行機だって滑走路が整備されているから飛び立てる。母子関係もできていないのに、母子分離を図ればおかしくなる。」乳児院で育てられた少年犯の事件だが、犯人がいかなる生い立ちでも被害者側の気持ちを思うと辛い。2013/01/21
ゆふいん
1
乳児期に充分な愛情を受けられなかったことが引き金となり、ドミノ倒しのように辛い人生を歩むことになるとは。20年以上前の話だけど、児童福祉施設の環境は少しは改善されているんだろうか?でも、「彼」に全く責任がないとはどうしても思えない。心ある人がいくつもの手を差し伸べていたのだから。 2012/08/30