内容説明
はばたく言葉、みずみずしい抒情、そして自由なる詩想。幻の第一歌集、刊行より24年を経て、待望の新装版。
目次
まるい食卓
四角い食卓
楕円の食卓
いびつな食卓
街の食卓
星の食卓
食卓の音楽 栞
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まみ
14
パン屋のパンセ(第二歌集)は大好きで何度も読んだけれどこちらは初読み。一首めの「ティ・カップに内接円をなすレモン占星術をかつて信ぜず」からきゅんとなる。幾何学的な見立てをした上でレモンの切り口にホロスコープを見る。見ているものは日常のなんでもないものなのに、発想の転換の角度が素敵。2012/09/04
Timothy
8
『パン屋のパンセ』がよかったので第一歌集の方も。歌集としてはこの二冊きりなのが惜しい。共感し代弁されるような気持ちになることが多かった『パンセ』に比べ、こちらは動植物や楽器などの名前の織り込み方、特に比喩、見立て(?)に感心する歌が多かった気がする。言葉選びや文体の美しさ、どこかほっとする柔和さ、あたたかさは共通している。そしてそれには(体感主に動詞形容詞の)漢字の開き方も明らかに影響しているのだが、一方で私には読めない漢字も(主に名詞に)散見される二冊だった。一方を薦めるとしたら私は『パンセ』だろうか。2022/05/03
とある聖職志願者。
3
「パン屋のパンセ」著者による第一歌集。 「ひしめきて壺に挿される薔薇たちの自分以外の棘を痛がる」 「「立ち読みせしサン=テグジュペリのひと言が心に残り本屋をいずる」 「逆風に向かいて高くひるがえる燕は空のアクサンテギュ」 「もろもろの思い出がゆっくり立ち上がる立体絵本 雲多き午後」 「復活祭の紅き卵をわけくれし日曜学校の先生きみは」 私も棘あるんでしょうけど、他の人の棘が痛いです。2016/09/22
卯月
3
天文台勤務だった歌人の第二歌集『パン屋のパンセ』が良かったので、第一歌集も購入。「ひしめきて壺に挿される薔薇たちの自分以外の刺を痛がる」「されど欝されど倖せコーヒーの底にみえないものを飲み干す」「こんなにも明るい秋の飛行船ひとつぶの死が遠ざかりゆく」「一枚の影絵となってしまうまで冬の欅と鳥の関係」が好き。「栞」で、著者の師の歌人・前田透が野辺山宇宙電波観測所を詠んだ「宇宙電波に白き影おくアンテナはさみどりの野に日をかえしおり」を知る(宮内庁HPの昭和59年歌会始お題「緑」では結句が「向きをかへりをり」)。2013/07/20
toron*
2
ひしめきて壺に挿される薔薇たちの自分以外の刺を痛がる 簡潔なるあしたの図形 食パンに前方後円墳の切り口 目の前に突きつけられる冬鮮し地平をのぼる牡牛座のV かなしみよりもっとも無縁のところにてりんごの芯が密を貯めいる 長い間勝手に先入観で食わず嫌いをしていた作者だったが、良かったです。生活の明るい部分ばかり詠む「毒のない」感じだと決めつけていたけれど、思いのほか仄暗く、死が透けて見える歌も多い。一首で立てる歌も多い反面、解らない歌もところどころ混ざっていることも魅力になっているように思う。2022/02/24