出版社内容情報
死者との思い出が現世の絆をつなぐ
「わたしの村では、人が死ぬと『無常の使い』というものに立ってもらった。必ず二人組で、衣服を改め、死者の縁者の家へ歩いて行ったものである」――
荒畑寒村、細川一、仲宗根政善、白川静、鶴見和子、橋川文三、上野英信、谷川雁、井上光晴、砂田明、土本典昭、田上義春、川本輝夫、宇井純、多田富雄、原田正純、野呂邦暢、杉本栄子、石田晃三、八田昭男、久本三多、本田啓吉ら、生前交流の深かった22人の御霊に献げる珠玉の言霊。
石牟礼 道子[イシムレミチコ]
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シュシュ
28
いい本だった。石牟礼さんの文章はどこか懐かしく心にすっと染み込んでくる。水俣病は受難だが、いい人と出会えたと書かれていた。この本には、石牟礼さんの周りの亡くなった人たちへの思いが綴られていて、鶴見和子さんをはじめ、皆本当にいい人たちだった。水俣病の川本さんがチッソの社長と会い「俺が鬼か」と言った場面には特に泣けた。同じく患者の杉本栄子さんは「チッソを許す」とも言った。恨むのも苦しいと。『苦海浄土』で描かれていた人たちも出てきて、なんだか懐かしかった。2017/07/29
フム
9
代表作『苦海浄土』も読みたいと思いつつ未読のまま。図書館の新刊コーナーで見つけて、この量なら読めそうと思った。人は亡くなる間際に絆を確かめ合うという。水俣病をめぐる闘いの中で生まれた絆。それらの人々への追悼の言葉。「自分の掘った井戸にうつる星を見よ、その星こそが思う人の面影であると」文中の言葉をメモしながら読んだ。懐かしいそれらの人々は石牟礼さんの深く清んだ井戸の中にうつしだされ、気高い輝きをはなっているようであった。2017/07/11
のうみそしる
3
大地や海と密接な言葉で綴られた追悼文集。荒畑寒村、谷川雁と上野英信など錚々たる顔ぶれ。多田富雄『免疫の意味論』、土本典昭の映画。杉本栄子の養父、進の言葉「恨み返すなぞ、のさりち思えぞ」のさり=天のたまもの。迫害ものさりと思え。2022/06/14
trazom
3
石牟礼道子さんの、生前交流のあった23人の方々へのアンソロジー。石牟礼さんの文章は、切ない。亡くなった人たちへの愛情と慈しみに満ちている。「書いても書いても底に残って、死んではじめて、そういうことだったのかと、残った誰かが思い当ってくれることになっているのでしょう」。水俣では、人が死ぬと「無常の使い」が立って葬儀を執り行うという。村々が、葬儀屋さんに葬儀を委ねるようになり「無常の使いももう、すっかり死語になってしまった」と言う。石牟礼さんが、この本で「無常の使い」になろうとしていることの意味を噛みしめる。2017/04/04
Hiroki Nishizumi
3
無常の使い、という概念を初めて知った。近代思想を考えるには勉強の要らない人間を読み解かねば分からないと言う荒畑寒村。深みを目指した舞台人、砂田明。日本技術史の盲点で水俣病がおきたと言う宇井純。などが特に印象深く感じた。2017/08/07