内容説明
大正から昭和初期にかけて活躍した装幀家、挿絵画家、舞台装置家の著者が書き留めていた、消えゆく江戸情緒の世界。没後、昭和18年(1943)に刊行された随筆集『日本橋桧物町』(30篇収録)に、新たに発掘された44篇を加え刊行。
目次
1 装幀と挿絵
2 女
3 舞台と映画
4 町と旅
5 雑
6 泉鏡花と九九九会
著者等紹介
小村雪岱[コムラセッタイ]
本名安並泰助(旧姓小村)。明治20年(1887)、埼玉県川越市生まれ。明治41年(1908)、東京美術学校日本画科選科卒業。大正3年(1914)、泉鏡花『日本橋』(千章館)の装幀を手がけ、以後、鏡花本のほとんどの装幀をまかされる。また、大衆小説作家らの著書の装幀を多く手がけている。挿絵画家としては邦枝完二の新聞連載小説「おせん」や「お伝地獄」で確固たる地位を築き、舞台装置家としては守田勘彌「忠直卿行状記」を嚆矢として、中村歌右衛門や尾上菊五郎の舞台の装置を多く手がけた
真田幸治[サナダコウジ]
昭和47年(1972)、神奈川県横浜市生まれ。平成8年(1996)、日本大学芸術学部美術学科卒業。現在、装幀家。小村雪岱研究をライフワークとしている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
59
鏡花の装丁で知られる画家の随筆集。女性の美のことや舞台のこと、旅や東京の風景、さらには鏡花のことなど様々な興味深い事物がここでは語られている。文体が話し言葉で語られているのと一部が旧仮名遣いなので、読んでいて唯々風雅な印象を受けた。著者の本職ともいえる装丁や画についてやほとんど知る事の無かった舞台装置のあれこれも面白かったのだが、やはり未だ江戸と地続きだった頃の東京の話や季節と共にある旅の話、何より鏡花との縁が語られるのが何より興味深い。挿絵や資料も多分に収録されていて、そちらもゆっくり楽しむ事が出来た。2018/03/04
井月 奎(いづき けい)
30
鏑木清方、鰭崎英朋など鏡花作品に絵を添える画家は多く、各々が素晴らしい絵描きなのですが、私はそのなかで小村雪岱を一等に好むのです。絵だけですと鏑木の涼やかな濃密さや鰭崎のむせるような力の香りの前に少し影が薄く見えます。それが鏡花の物語と呼応した際の深みと世界の顕現化は類を見ません。理由の一端をこの本を読んで気が付きました。鏡花への深い思慕を持ちながら装丁も行っているのです。ですので絵と文章、絵の空気感と物語の世界観がぴたりと相性も良いのです。文章も飾りの少ない、それでいていい香りがする秀逸なものです。2018/07/06
yyrn
17
5G革命など最先端技術が切り開く未来の話にはワクワクするが、一方で百年前の人々がどんなことを考えていたのかを知ることも同じくらいに面白い。本書は明治期の挿絵画家、小村雪岱(せったい)の随筆集で、名前は知らなくても(私は知りませんでした)、どこかでその挿絵をみたことがある人は多いと思う。新聞小説などに添えた挿絵に関する話のほか、本の装丁や舞台芸術に関する率直な語りが、妙に腑に落ちて面白く、話の分かる遠い親戚のおじさんの話を聞いているような心地よさがあった。Gペン一本分?で現す一重の目と長いうなじが印象的。2019/12/03
チェアー
13
自分の挿画が「表情がない」と批判されることに反論して、「表情がないからこそ豊かな感情を表現できるのだ」と書いたくだりにはなるほど。能や踊りの世界と共通するものを感じる。装丁へのこだわり、舞台装置、舞台芸術に対する情熱の強さも。泉鏡花を読みたくなる。2018/04/05
belle
6
小村雪岱が気になりだしたのはいつ頃だったのか定かではないが、平凡社ライブラリー「日本橋檜物町」を読んだことは大きい。ゆかりの川越で展覧会が催された今年、満を持してこの随筆集が登場した。編者に感謝。装幀、挿絵、舞台装置の仕事や日常のあれこれを本人自らの文章で綴られる。~天然のものより人工のものに興味がある~と雪岱は語っているのが印象に残った。春の雪解けの日や夏の宵に、タイムスリップしてこの味わいのある本を開くのが、これからも楽しみだ。 2018/06/04