内容説明
日常には偶然が満ち満ちているが、小説における偶然は、すべて作者による虚構である。夏目漱石、森鴎外、横光利一、谷崎潤一郎、江戸川乱歩などの作品を素材に、仕組まれた偶然を考察、小説の面白さを再発見する!
目次
第1章 文学性・虚構性・偶然性―夏目漱石・国木田独歩・森鴎外
第2章 偶然という問題圏―昭和一〇年前後の自然科学および哲学と文学
第3章 昭和一〇年前後の「偶然」論―中河与一「偶然文学論」を中心に
第4章 通俗小説の偶然性―横光利一「純粋小説論」を中心に
第5章 偶然のロマンティシズムと文学―短歌と私小説をめぐって
第6章 詩の押韻と偶然―九鬼周造『偶然性の問題』を中心に
第7章 投機と相場の偶然―横光利一・獅子文六
第8章 ギャンブルの執着性と恋愛および嫉妬―久生十蘭・織田作之助
第9章 犯罪小説の蓋然性―谷崎潤一郎・江戸川乱歩
著者等紹介
真銅正宏[シンドウマサヒロ]
1962年、大阪府生まれ。神戸大学大学院単位所得退学。徳島大学総合科学部教官、同志社大学文学部教授を経て、文学指南研究所所長。専攻は日本近現代文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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7ember
2
中河与一がハイゼルベルグの不完全性定理を(いささか性急に?)援用して執筆した偶然論が昭和10年前後(1930年代)に論争を巻き起こしたとのこと。それはマルクス主義の必然論を打ち返すためのものでもあったらしい。後半は作品論になりちょっとトーンが変わった印象だった。檜垣立哉の『賭博/偶然の哲学』の競馬論は面白いですよね~。2024/01/03
兵頭 浩佑
0
「小説の面白さとは何か。これが私の研究したい一番の対象である」とあとがきには書かれている。なんとも清々しく、そしてほっとする言葉ではないか。 このような最も基本的な問いが、批評家からも哲学者からも、そして何より作家自身からも聞かれなくなって久しい。それに呼応するかのごとく、それぞれが場当たり的に身辺雑記を繰り返しながら、五大誌の部数は1万部を切る所まで来たのが今、令和3年という時代だ。 ここにおいてもなお、まだ文学などと言いたいのであれば、"学"と謳うのであれば、もう一度この最初の地点からやり直そう。2021/04/07