出版社内容情報
事実こそ小説であると現地主義に徹し、歴史家には埋めることのできない空白部分を独創的に物語化した人気作家の生涯。
【著者紹介】
1942~2014年。京城市生まれ。山形大学文理学部卒。出版社「一粒社」を立ち上げる。「飛島へ」で山形市芸術文化協会賞、「ひさし伝」で真壁仁・野の文化賞、山形市芸術文化協会特別賞を受賞。著書に「藤沢周平伝」など。
内容説明
自ら「現地主義」と称し、歴史家には埋めることのできない空白部分を物語にしていった稀代の作家の生涯を熱く検証する、『ひさし伝』『藤沢周平伝』に続く、渾身の遺作。
目次
郷里の日暮里と戦争体験
長い同人雑誌の遍歴
活路を拓いた記録文学
証言で追う戦史の真相
戦史小説から歴史小説へ
短篇小説が生きがい
漂流記録は独自の海洋文学
歴史の真実を見据える
知られざる歴史を発掘
幕末から明治を駈ける
長篇歴史小説の総決算へ
著者等紹介
笹沢信[ササザワシン]
1942年京城市生まれ。1966年山形大学文理学部卒。山形新聞社入社、主に文化欄を担当、1998年退社、出版社「一粒社」を立ち上げる。1994年、小説集『飛島へ』(深夜叢書社)で山形市芸術文化協会賞、2013年、『ひさし伝』(新潮社)で真壁仁・野の文化賞、山形市芸術文化協会特別賞受賞。2014年4月6日没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マエダ
77
”吉村昭が信用したのは自分の眼と耳だけである。禁欲的なまでに感情を交えぬ文体。余計なフィクションを排除し、淡々と事実だけを記述する方法。事実こそ小説であると確信し、事実をもってかたらしめるという創作姿勢こそは吉村文学の真髄だった”自分が吉村昭を好きな理由を明解に言ってくれている。本書を通して自身の読んだ吉村作品の内情を知れたのはこの上ない喜びである。2018/03/24
mondo
48
著者である笹沢信も吉村昭のことが余程好きだったことが伝わってくる。本書は吉村昭の著作を時系列的に紹介、解説していくが、同時に笹沢信の目線で吉村昭の人生観が語られていく。当然、吉村昭のことを研究していなければできないことだが、著作が多いこともあり、膨大な労力を伴ったことだと思う。残念ながら笹沢信にとって本書が遺作となってしまった。本書の最終章に吉村昭の最後の長編「彰義隊」が出てくるが、吉村昭が闘病しながら「彰義隊」を推敲しているシーンと、笹沢信が全身を傾けて本書を書き上げるところが重なり泣けた。渾身の一冊。2023/05/15
kawa
36
敬愛する吉村氏、「ベスト・オブ・~」の趣き。丁度、初期作品の「海の奇跡」や「星の旅」を読んだ直後だったので、本書を手に取る時期としてもベスト。40歳前までの不遇時代、「新潮」編集長・斎藤十一氏(氏の評伝・森功著「鬼才伝説の編集人斎藤十一」も充実作)の勧めによる記録文学「戦艦武蔵」の誕生と飛躍、短編小説が生きがい(短編小説集も多い)、目が点となるような多作ぶりと過不足なしの作品紹介と、読みどころ多し。まだまだ読んでない作品が山盛りで嬉しさも100倍。本書をレビューしていただいた読み友さんに、まず感謝ですね。2023/06/23
ばんだねいっぺい
30
知っている吉村昭になるまでの前段がとっても興味深い。戦艦武蔵の上梓からギアが一段と上がり、その勢いのままという感じだ。末長く読まれ続けて欲しい作家のひとりだ。2023/11/17
Ted
9
'14年7月刊。○著者は山形新聞の記者出身の作家。食道癌に冒され、僅か半年で死去。遺作となった本書は死の3ヵ月後に出版された。川西政明による評伝『吉村昭』('08年)と同じくらい吉村昭とその作品の魅力を充分に伝えている。夫人によるあとがきにもあったが、今までの人生の集大成として旺盛な執筆欲を満たそうという正にこれからという時に突如病魔に襲われ逝ってしまった著者の無念はいかばかりかと思う。思い立ったが吉日、やりたいと思ったことは元気なうちにずんずん実行に移すべし。ただし、優先順位をつけるのを忘れずに。2016/08/15