出版社内容情報
哲学と科学を緊密に結びつけ、科学をとおして人間の知の営みを捉えようとする哲学上の立場=「自然主義」。本書では人間の心には何が生まれつき備わっているのかをめぐる生得説と経験主義の対立を軸に、心理学や認知科学における新しい仮説や知見をふんだんに取り込み、領域の拡大と深化を続ける自然主義の大航海へと読者をいざなう。
内容説明
哲学と心を対象とする諸科学とが交差する場で繰り広げられる知のスペクタクルの最前線へ!自然主義からの眺望を示す初めての入門書。
目次
第1章 自然主義の輪郭
第2章 道徳と言語のネイティヴィズム
第3章 味わう道徳、学ぶ道徳
第4章 生得的な心は科学する
第5章 経験主義の逆襲
第6章 ふたつの心とサイボーグ
第7章 善き生・工学・道徳的進歩
第8章 疑いとア・プリオリ
第9章 自然化する哲学―存在と方法
著者等紹介
植原亮[ウエハラリョウ]
1978年埼玉県に生まれる。2008年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学、博士(学術、2011年)。現在、関西大学総合情報学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
sk
8
哲学の問題を科学的に解決しようとする自然主義の入門書。この分野を専攻していた身としては、本書は入門の入門という感じ。だが分かりやすく丁寧で、入門書として最適だと思われる。2017/12/27
サンセット
6
古代からの観念的な哲学や、ポパーなどの(本書で言えば懐疑論的な)科学哲学なんかは、実際に科学や工学の問題に取り組んでる人からすると、互いに相反する領域の印象があると思う。本書では、哲学の特権性を否定し、人間やその人工物も徹底して「自然」の中に位置付けようとする。唯物論的な世界観(物理主義)を前提にしつつ、感情や文化と結び付けて道徳を定義する所などは面白かった。科学者は脳だけでなく紙や黒板などの「外的足場」も利用して研究を進めるとか、工学的問題は事実だけでなく規範の問題も含んでいるという指摘は興味深かった。2020/03/09
borisbear
3
kindle化がきっかけで読んだが、著者の力量を感じる良い本だった。本書で扱われている「生得説と経験主義」という対比は、それ自体は程度問題であることはボールドウィン効果(特定種類の経験的学習を促進し方向付ける遺伝的適応)等という言葉の存在でも明らかだが、この対比は人間という動物について広範な議論をするための軸としては実に有益で、特に本書中盤は自分の個人的関心との接点が非常に多い内容だった。2021/04/18
左手爆弾
3
表題に偽りなく、哲学に於ける自然主義という立場がいかなるものなのか、豊富な事例と的確な解説によって紹介。自然主義の立場の哲学者は、哲学と科学の結びつきを主張する。この世界とは自然であり、人間の心などもそれを構成する部分に過ぎない。本書全体のモチーフになっているのは「ノイラートの船」だ。哲学者が試みてきた、知識の根拠付けをするための契機などはなく、我々は既に自然科学という不完全だが重要な道具を使いながら進んでいくしかない。こうした自然主義の主張と想定される反論を様々なトピックについて紹介していく。2020/08/15
田蛙澄
2
生得説と経験主義という対立から、道徳や心、懐疑論についての自然主義的な見方を述べる流れは面白かった。特にカントを洗練された経験主義と見るのは新鮮な気がした。また、生得説がチョムスキー経由でむしろ心理学の分野も加味すると、道徳文法学派のような立場を構築してるのは初めて知った。二重プロセス理論もシンプルではあるが、心の説明としてはしっくりくるし、モジュールという心理用語で生得説を整理してるのも印象的だった。また懐疑論に対してはアプリオリの不明瞭さの指摘や水槽の脳の様相直観の無効化など興味深かった。2018/08/09