出版社内容情報
離婚を望み決死の覚悟で寺に駆け込む女たちの強さ、家族の絆を描いて胸に迫る、涙と笑いの物語。十年をかけて紡いだ感動の遺作。
女たちの「駆け込み寺」を描く、涙と笑いの遺作
離婚を望み決死の覚悟で寺に駆け込む女たちの強さ、家族の絆を描いて胸に迫る、涙と笑いの物語。十年をかけて紡いだ感動の遺作。
内容説明
寺の境内に身につけているものを投げ込めば、駆け込みは成立する―離婚を望み、寺に駆け込む女たち。夫婦のもめ事を解きほぐすと現れるのは、経済事情、まさかの思惑、そして人情の切なさ、温かさ。鎌倉の四季を背景にふっくらと描かれる、笑いと涙の傑作時代連作集。著者自身による特別講義を巻末収録。
著者等紹介
井上ひさし[イノウエヒサシ]
昭和9年(1934)、山形県生まれ。上智大学外国語学部フランス語科卒。浅草フランス座文芸部兼進行係などを経て、戯曲「日本人のへそ」、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」などを手がける。47年「手鎖心中」で直木賞受賞、54年「しみじみ日本・乃木大将」「小林一茶」で紀伊國屋演劇賞、翌年読売文学賞戯曲賞を受賞。56年「吉里吉里人」で日本SF大賞、翌年読売文学賞小説賞を受賞。平成11年、菊池寛賞受賞。16年、文化功労者。22年4月9日逝去(享年75)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鉄之助
337
駆け込み寺として有名な東慶寺の近くにある、御用宿の居候が主人公。駆け込む女性は、必ずしも”か弱い”人だけでなく、様々で面白い。時には、男性の駆け込み人も……。なぜ離縁状を「三行半(みくだりはん)」というのか? 離縁の言い訳はたいてい三行半で言い尽くされ、中には縦棒線を3本半書いて「離縁状」とした事例もあるとか。出典は、『三くだり半と縁切寺』(高木侃、講談社現代新書)2023/02/05
ヴェネツィア
304
井上ひさしらしい戯作調の連作短篇集。物語を記録する役割を担うのは、洒落本作家の信次郎であり、「語り」の面白さを伝える。江戸時代の駆け込み寺、鎌倉の東慶寺を舞台に、女たちの様々な人間ドラマがそこに展開する。封建社会ではあったが、案外にも当時の女性たちは、ある意味では現代よりもむしろ自由な側面があったのではないか。そんな発見が本書の眼目である。少なくても東慶寺というアジールはあったのだ。「毎日が日曜日」という杉浦日向子さんの江戸観に通底する世界を感じるし、井上ひさしの視線はどこまでも柔らかく、また暖かい。2017/09/04
ケンイチミズバ
127
東慶寺はシェルターです。追手が迫る中、身に着けているものを境内に投げ込めば寺法により駆け込みが認められます。夫婦百組いれば、百通りの事情あり。真の離縁も偽装もある。駆け出し作家の信次郎さんも書記の任を授かり、そろそろ気づくのでは?妻側の言い分、夫側の言い分それぞれが滑稽本のネタになるではないですか。女児が金目当てに攫われ吉原に売られる。めちゃくくちゃな時代です。どんなに優れた腕をしてても女は家督を継げない。女性というだけで降りかかる受難への憤りも交え落語の一説のように軽妙で朗らかに物語る名作です。再読。2020/06/18
kinkin
116
約10年かけて「オール読物」に連載された短編集。東慶寺に駆け込む人と主人公の信二郎と彼を取り巻く人々の話。井上ひさし氏らしいテンポのよい話の進行に魅せられた。クスッとおかしい話、ホロリとする話が鎌倉の季節とともに描かれていて日本の四季をとても感じさせる小説と感じた。駆け込み寺についても細かく書かれていて当時の暮らしや風俗も知ることが出来た。2015/12/04
chimako
113
井上ひさし氏の遺作。丹念に調べられた当時の鎌倉の風情が読み手の胸に染み込むような連作短編集。縁切り寺東慶寺の御用宿柏屋を舞台に女たちの男たちの抜き差しならない事情が折り重なる。夫婦は十組あれば十色の二十組あれば二十色の別れる理由がある。別れたいのか別れたくないのか。行ってしまいたいのか戻りたいのか。酷い男も相方大事も。皆を語らず余韻をもって読み手の託された各々の今後。鎌倉という独特の土地柄がしっとりとした読後感を呼ぶ秀作。あの時代は男も女も若いも年寄りも上手く自分の器で生きる。柏屋の面々は清々しくもある。2016/07/26