選べなかった命―出生前診断の誤診で生まれた子

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  • サイズ B6判/ページ数 248p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784163908670
  • NDC分類 916
  • Cコード C0095

出版社内容情報

その女性は、出生前診断をうけて、「異常なし」と
医師から伝えられたが、生まれてきた子はダウン症だった。
函館で医者と医院を提訴した彼女に会わなければならない。
裁判の過程で見えてきたのは、そもそも
現在の母体保護法では、障害を理由にした中絶は
認められていないことだった。
ダウン症の子と共に生きる家族、
ダウン症でありながら大学に行った女性、
家族に委ねられた選別に苦しむ助産師。
多くの当事者の声に耳を傾けながら
選ぶことの是非を考える。

プロローグ 誰を殺すべきか?
その女性は出生前診断を受けて、「異常なし」と医師から伝えられたが、生まれてきた子は ダウン症だったという。函館で医師を提訴した彼女に私は会わなければならない。

第一章 望まれた子
「胎児の首の後ろにむくみがある」。ダウン症の疑いがあるということだ。四十一歳の光は悩 んだ末に羊水検査を受ける。結果は「異常なし」。望まれたその子を「天聖」と名づける。

第二章 誤診発覚
「二十一トリソミー。いわゆるダウン症です」。小児科医の発した言葉に、光は衝撃をうける。 遠藤医師は、検査結果の二枚目を見落としていた。天聖は様々な合併症に苦しんでいた。

第三章 ママ、もうぼくがんばれないや
ついに力尽きた天聖を光はわが家に連れて帰る。「ここがお兄ちゃん、お姉ちゃんと一緒に 寝る寝室だよ」。絵本を読み聞かせ、子守唄を歌い、家族は最初で最後の一夜を過ごす。

第四章 障害者団体を敵に回す覚悟はあるのですか?
天聖が亡くなると遠藤医師はとたんに冷たくなったように夫妻は感じた。弁護士を探すが、 ことごとく断られる。医師から天聖への謝罪はなく、慰謝料の提示は二〇〇万円だった。

第五章 提訴
それは日本で初めての「ロングフルライフ訴訟」となった。両親の慰謝料だけでなく、誤診 によって望まぬ生を受け苦痛に苦しんだ天聖に対する損害賠償を求めるものだった。

第六章 母体保護法の壁
母体保護法ではそもそも障害を理由にした中絶を認めていない。したがって提訴は失当。被 告側の論理に光は、母体保護法が成立するまでの、障害者をめぐる苦闘の歴史を知る。

第七章 ずるさの意味
光の裁判を知って、「ずるい」と言った女性がいた。彼女は、羊水検査を受けられなかった のでダウン症の子を生んでしまった、と提訴したが、その子は今も生きている。

第八章 二十年後の家族
京都で二十年以上前にあったダウン症児の出産をめぐる裁判。「羊水検査でわかっていたら 中絶していた」と訴えた家族を訪ねた。その時の子どもは二十三歳になっているという。

第九章 証人尋問
裁判では、「中絶権」そのものが争われた。「中絶権」を侵害され、子どもは望まぬ生を生き たというが、そもそも「中絶する権利」などない。そう医師側は書面で主張した。

第十章 無脳症の男児を出産
苦しむだけの生であれば、生そのものが損害なのかを光の裁判は問いかけた。一方、この女 性は、子どもが無脳症であるとわかりながら、中絶をせずにあえて出産していた。

第十一章 医師と助産師の立場から
病院は赤ちゃんの生存の決定を家族に委ねるようになっている。障害をもって生まれた子は、 何もしなければ死ぬ子も多い。だが現場の助産師は、そうした中疲弊している。

第十二章 判決
判決は被告に一〇〇〇万円の支払いを命ずる原告側の勝訴。しかし、それは、「心の準備が できなかった」夫妻への慰謝料だった。光は「天聖に謝って欲しかった」と肩をふるわす。

第十三章 NIPTと強制不妊
優生保護法下で、強制的に不妊手術を受けた人たちが、国家賠償訴訟を始めて、全国的な広 がりとなった。私は最初に提訴した宮城県の原告の女性を訪ねる。

第十四章 私が殺される
「なぜダウン症がここまで標的になるのか」。NIPTによってスクリーニングされることに 「私が殺される」という思いで傷ついている人たちがいる。

第十五章 そしてダウン症の子は
ダウン症でありながらも日本で初めて大学を卒業した岩元綾は言った。「赤ちゃんがかわい そう。そして一番かわいそうなのは、赤ちゃんを亡くしたお母さんです」。

エピローグ 善悪の先にあるもの
「どうして私のことをかわいそうって言ったのでしょう……」。ダウン症当事者の岩元の言葉 を伝えると、光は涙をためながら言った。

内容説明

その女性は、出生前診断を受けて、「異常なし」と医師から伝えられたが、生まれてきた子はダウン症だった。函館で医師と医院を提訴した彼女に会わなければならない。裁判の過程で見えてきたのは、そもそも現在の母体保護法では、障害を理由にした中絶は認められていないことだった。ダウン症の子と共に生きる家族、ダウン症でありながら大学に行った女性、家族に委ねられた選別に苦しむ助産師。多くの当事者の声に耳を傾けながら選ぶことの是非を考える。出生前診断をめぐる様々な当事者たちの声からつむぐノンフィクション。

目次

誰を殺すべきか?
望まれた子
誤診発覚
ママ、もうぼくがんばれないや
障害者団体を敵に回す覚悟はあるのですか?
提訴
母体保護法の壁
ずるさの意味
二十年後の家族
証人尋問
無脳症の男児を出産
医師と助産師の立場から
判決
NIPTと強制不妊
私が殺される
そしてダウン症の子は
善悪の先にあるもの

著者等紹介

河合香織[カワイカオリ]
1974年生れ。ノンフィクション作家。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒業。2004年に出版した『セックスボランティア』で、障害者の性と愛の問題を取り上げ、話題を呼ぶ。2009年『ウスケボーイズ―日本ワインの革命児たち―』で小学館ノンフィクション大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

遥かなる想い

170
第50回(2019年)大宅壮一ノンフィクション賞。 出生前診断を 巡る問題に取り組んだ作品である。障害を持つ子どもを産む可能性に対して、その母たちは 何を考え、選択してきたのか?誰が加害者で 誰が被害者なのか? この重いテーマを 丹念に 取材する …多くの当事者の声に 耳を傾けながら、 苦渋の選択の苦しみを知る…重いテーマの 作品だった。2019/08/04

ちゃちゃ

121
医療技術が飛躍的に進んだ現代。その恩恵を享受する私たちは本当に幸せなのか。特に生死に関わる多くの選択肢が準備され、私たちは自己決定を迫られる。かつては「天から授かった命」だったものが、今は選別の対象となる。重い先天性疾患を持つ胎児は選別の対象なのか。神の領域に踏み込むことへの畏れ、恐れ。出生前診断の是非を安易に結論づけることは到底できない。「正しい選択」などあり得ない。あるのは、苦渋に満ちた選択を受け入れて生きてゆくことだけだ。けれどそこに、医療者や社会の真摯な支援の手と温かい視線が不可欠だと強く思う。2019/12/11

あっか

111
はあ…涙。天聖君、潤君、デイヴィッド君達…本を閉じた今も忘れられません。出産前診断の誤診による田中夫婦の裁判を中心に、今日の中絶に至るまでの歴史、強制赴任の裁判と当事者を取材した1冊。著者の後書きに全て言いたいことが書いてある。正しい正解はない。わたし達ができるのは、その時その時真剣に考え抜きその時ベストだと思うことを決断することだけ。どんな経験や価値観があろうとその選択に他人はとやかく言えないと思う。やっぱりこうして良かった、というのは結果論だと思うし…経済状況や精神状況で取れる選択も変わると思うから。2019/09/02

読特

100
ロングフルライフ訴訟。この世に生を受け、苦しみに耐え、短い人生をまっとうした子。苦痛は避けられた。21トリソミー。責任は見落とした医師にもある。我が子に謝罪して欲しい。それが動機で起こした提訴。勝訴判決。だが、主張は汲み取られていない。訴訟は議論を巻き起こす。生きたことが”ロングフル”なのか。そもそも胎児の障害を理由での堕胎は法的に許されない。現実は違う。きれいごとで済まされない。生きにくさを拭えない程度にしか進歩していない科学。”障害”を与え続ける社会。「答えがない」は逃げ。たどり着けなくても考え続ける2021/12/06

あすなろ

97
エピローグの医師側弁護士の発言がラストにまた心を揺さぶる。それは恰もこの本の全てを象徴するかの様。私は絶対に許さない。人間が人間の命を選別すること自体。この事件を担当するのが本当に嫌だった、と。出生前診断の誤審で生まれた子とサブタイトルある通り、出生前診断から中絶や母体保護法、優性保護法、強制不妊迄書かれる。実に様々な事や自身の経験してきたことを重ね考え続けた読書だが、著者が読者に突き付けるのは、どんな子を誕生させ、どんな子を殺すのかということ。医学的には誰一人完全に正常な遺伝子を持つ者などいないとのこと2019/08/19

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