出版社内容情報
今や私には意図された目的が十分に達成されたと思われる。すなわち世界が善い状態にあるためには君主の職務が必要か否かという問題、そして、ローマ人民は法にかなった仕方で正当に帝権を自分たちのものにしたのかという問題、そして最後に、君主の権威は神から直接に由来するのか、それとも他の者から直接に由来するのかという問題、我々が探究するこれら三つの問題に関する真理が明らかになった。――本文より
内容説明
一四世紀の初頭、故郷フィレンツェは、教皇派、皇帝派入り乱れ、抗争を繰り返していた。人類社会全体の目的を普遍的平和であると見据えたダンテは、教会による霊的統治と、君主による世俗的統治の分離にその希望を託す。両者の正統性を歴史的、哲学的に分析し、平和、正義、自由をもたらす君主国の到来を夢見る。『神曲』理解にも資する重要著作の羅語原典訳。
目次
第1巻
第2巻
第3巻
著者等紹介
アリギエーリ,ダンテ[アリギエーリ,ダンテ] [Alighieri,Dante]
1265年、フィレンツェ生まれ。中世最大の詩人の一人であり、作家、哲学者、政治家でもあった。1321年、ラヴェンナで没
小林公[コバヤシイサオ]
1945年、横浜市生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学助手、立教大学教授等を経て、立教大学名誉教授。専門は法哲学・法思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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34
24
プラトンやアリストテレスとおなじようにダンテも理想的な政治形態の可能性を君主制に見ている。ギリシアの先賢と異なるのは、彼はアウグストゥスのローマ帝国を理想的体制のモデルとしているため、世界規模での単一支配の可能性を視野に収めていること。そこに絡めて、アヴェロエス主義からの影響を受けた独特の類的存在論がある。ダンテによると、人類に固有の働きは人類が全体として分有する潜在的な可能理性にあるとされ、その可能理性の集団的な現実化こそが世俗的幸福の意味である。西洋の政治思想の本流がどこにあるのか考えさせられる古典。2018/05/09
buuupuuu
13
君主政を擁護するとともに、世俗的権力が教会から独立していることを説いた本。被造物としての人類社会全体の幸福は可能理性を全面的に顕勢化させつづけることにあり、世俗的権力の役割はそのための平和的環境を準備することである。これは、人々がそれぞれ多様な仕方で潜在能力を開花させるための自由と平和を保護することだと言い換えられるだろうか。まさにルネッサンスという感じがする(?)。当時の政治情勢やダンテ自身の境遇にもかかわらず、2巻では理想的状態が神の摂理の業によって実現したことが扱われていて、若干楽観的な印象がある。2022/06/30
てれまこし
5
ヒーロー物に慣れ親しんだぼくらにとっては世界帝国の皇帝といえば悪党と相場が決まってる。だがこんな偏見もナショナリズムの時代の産物らしくて、ダンテにとっては皇帝こそが世界平和をもたらす救世主だった。グェルフィ白党の一員として党派間の政争に加担し敗れて追放処分を受けたダンテは、自分を庇護してくれたパトロンのギッベッリーニ党に接近する。その庇護者の立場を擁護するためにローマ皇帝の地位をローマ教皇から分離する理論を考えたらしい。宗教的権威から政治を分離することになるから、マキァヴッリとの距離も思ったより遠くない。2024/01/15