内容説明
古事記から源氏物語まで文化意志の発現として捉えた「日本文学小史」をはじめ、独自の美意識によって、古今和歌集や能、葉隠など古典の魅力を綴った秀抜なエッセイを初集成。三島由紀夫が誘う優雅にして豊饒な古典の世界。雑誌「文芸文化」掲載の全評論を収録。文庫オリジナル。
目次
日本の古典と私
1(わが古典;相聞歌の源流;古今集と新古今集;存在しないものの美学 ほか)
2(日本文学小史)
3(「文芸文化」のころ;「花ざかりの森」出版のころ;「花ざかりの森」のころ;古今の季節 ほか)
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925(大正14)年東京に生まれる。本名、平岡公威。学習院高等科を経て東京帝国大学法律学科を卒業。在学中の44(昭和19)年に処女創作集『花ざかりの森』を刊行。戦後47年大蔵省に入り翌年退官。49年に刊行した『仮面の告白』で名声を確立し、以後、文筆活動に専念する。『潮騒』にて新潮社文学賞、『白蟻の巣』にて岸田国士演劇賞、『金閣寺』にて読売文学賞、『絹と明察』にて毎日芸術賞、『サド公爵夫人』にて芸術祭賞などを受賞した。68年、「楯の会」を結成し、70(昭和45)年、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しゅてふぁん
53
最近読んだ三島作品に古典作品を思わせる表現が出てきたので読んでみた。エッセイは読み易く、‘美しい’日本語で書かれた古典作品が三島氏ならではの‘美しい’日本語で表現されているのが堪らない。中盤の『日本文学小史』は難しかった。万葉集、懐風藻、源氏物語はまだ何とかなるとして、それ以外!特に古今集については全体に渡ってよく出てきたけれど、三島氏が熱く語りだすともう何を言っているのかさっぱりワカラナイ。ただ、古今集に対してとても思い入れがあることだけはわかった。三島氏の‘座右の書’雨月物語は読んでおこうかな。2019/12/10
優希
39
独自の美意識で古典の魅力を紡いでいました。優雅で豊穣な古の世界。専攻が古典文学だったので興味深く読みました。2023/12/08
テツ
29
三島由紀夫による古典文学についてのエッセイ。個人が文章に書くこと、書いたものは勿論、読むという行為にもきっとその主体のイデオロギーと知性とが大きく関わる。同じ美しい文章を読んでもそれを受け取る人間により解釈が全く異なるのは当然だけれど、ぼくたちのような凡人では十人十色な筈のそれを語っても他人を楽しませることはできない。三島のような知性と教養をもつ人間による文学作品の解説はとても面白いな。賢い方の文章は面白いんだなというあたりまえの事実に感動します。雨月物語とか読み返したくなりますね。2020/03/24
ゲオルギオ・ハーン
27
三島由紀夫の作品を読む前にまずはエッセイで考え方や雰囲気を掴むために一読。市ケ谷駐屯地での事件のイメージから苛烈な印象があったが、本書を読んでいくと感覚的なものを理性で分析しつつ、感性的な面での表現も優雅にしているという二面性を持った綺麗な文章に驚きました。エッセイのなかで一番印象に残ったものは『能ーその心に学ぶ』で、能の仮面をつけた幻の女性像は生身の女性では再現できないという奇妙と感じつつも、なぜか感性的に納得してしまう鋭い指摘でした。文章、知性に魅力を感じたので今度は作品を読んでいきたい。2022/01/17
べる
18
三島は満十六歳の時に『花ざかりの森』という連載でデビューし、これを契機に寄稿や同人の集まりに出席するようになる。戦争中に芥川比呂志はこの本を買って強い印象を受けた一人であり、三島は本を通しての縁を強く感じている。日本語というものの完熟は古今集に至って成就したと述べる。古今の歌人達が季節に向かう姿勢、風流の思いの底に清らかに流れるものを探り当てていきたい。源氏物語は、「花の宴」と「胡蝶」という「 もののあはれ」の片鱗もない快楽が咲く二巻を取り上げ、束の間の静止の頂点なしに物語は成立しないと批評する。納得。2022/10/17