出版社内容情報
メディチ家のジュリアーノと美しいシモネッタの恋は、悲劇的であるがゆえに美しく、ボッティチェルリは彼らを題材に大作を描き始めるのだった――
内容説明
限りある生を惜しみ、その“永遠の姿”を地上にとどめようと描き続けるボッティチェルリだが、あるがままに描くという時代の流行との差異に苦悩する日々が続いていた。そんなある日、ジュリアーノ・デ・メディチの禁じられた恋人、美しきシモネッタに捧げられた壮麗な騎馬祭がフィオレンツァ全市を挙げて催される。
著者等紹介
辻邦生[ツジクニオ]
1925年、東京生まれ。東京大学仏文科卒業。63年「廻廊にて」で第四回近代文学賞、68年『安土往還記』で芸術選奨新人賞、72年『背教者ユリアヌス』で第十四回毎日芸術賞、95年『西行花伝』で第三十一回谷崎潤一郎賞受賞。99年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
k5
64
シモネッタが自分をモデルに描かれた「春」について、「人間って、こうした美しいものを見るためには、明日死ぬことが分かっていても、遠くへ旅立とうと思うものだ」というセリフが、現下の状況もあいまって、心に響きました。相変わらず美術論はそんなに面白くないんですが、メディチ銀行の衰退や明礬争奪戦といった社会経済的な描写や、ロレンツォの祝祭好きと都市論を絡めたところなど、読みどころは多々あります。三巻へ。2021/05/14
たかしくん。
33
2巻の前半は、1473年をピークとしたメディチ家のフィレンツェの春が、まったりと描かれてます。勿論、前巻に引き続き、陰りのある華やかさが基調にあることには変わりありません。そして、後半はヒロインであるシモネッタをモデルに、サンドロの傑作「ヴィーナスの統括」こと「春」を完成させるまでの静かな格闘です。この作品に共通すると思われる「神的なもの」を目指して! この物語の一つのピークでもありますね。そしてそのピークも、シモネッタの死で静かに終わりました。2016/06/19
うた
17
そう、ルネサンスとは単なる古代復興ではなく、それらが中世を通して育まれてきたキリスト教と融合しているからこそ、現代にも通じるような大きな文化期となったのだ。“春”の完成とシモネッタの死を境にフィオレンツァはどこへ向かっていくのか。フィオレンツァを巡る情勢とサンドロを中心とした芸術論、そして私の哲学的な洞察が入れ替わり立ち替わりしながら、物語は進む。2016/11/17
chang_ume
11
《春・プリマヴェーラ》の完成から、「美しきシモネッタ」の死まで。途中、著者の芸術論が冗長に展開されて、これはまいったな、辛抱たまらんなと思いきや、《春》の作品完成で感動が強く押し寄せる。異教的な新プラトン主義を基礎に据えつつ、シモネッタが投影されたヴィーナスのすがたに「聖母マリア」を見るまなざしは、後のボッティチェリを迎える運命、つまりはフィレンツェ全体のサヴォナローラへの熱狂をも暗示するようで、これは単なる作品解説にとどまらない。しかし辻邦生こそ、人文主義者(ユマニスト)ですね。脱帽というほかない。2020/02/21
ひまわり
11
今、猛烈にフィレンツェに行って「春」が見たい。絵を想像して泣けるって今までにないこと。2巻の最後になってやっとサンドロが「春」を描く。それまでの史実やら、心理描写など。美や生命を永遠にしたくて、それを絵にとどめたいと思う。今なら写真がそうかも。『人間って、こうした<美しいもの>を見るためには、明日死ぬことがわかっていても遠く旅立とうと思うもの』絵は描けない。絵を見てもまっとうな感想すらいえないのになぜか絵を見に行ってしまう。これは人間だからなのだねとしみじみ。2015/08/04