出版社内容情報
夫泰淳と過ごした富士山麓での十三年間の日々を、澄明な目と天性の無垢な心で克明にとらえ天衣無縫な文体でうつし出した日記文学の傑作。田村俊子賞受賞作。
内容説明
夫武田泰淳と過ごした富士山麓での十三年間の一瞬一瞬の生を、澄明な眼と無垢の心で克明にとらえ天衣無縫の文体でうつし出す、思索的文学者と天性の芸術者とのめずらしい組み合せのユニークな日記。昭和52年度田村俊子賞受賞作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろんこ*勉強のため休止中
185
3度目の再読。武田さんの物事に対する感じ方、表現の仕方にハッとする。悲しさ嬉しさ等の自身の感情に対して、独特の感覚で文章に改めて組み立てているような感じ。組み立て方に武田さん自身の”ワイルド姉さん”ぶり、無垢な豪快さがにじみ出ている。日記なので人に読まれることを前提としてない。無防備さが余計に胸を打つ。周囲の人とのやりとりもむきだしな臨場感があって、まるで自分もその場にいるようだ。昭和の街のどこか泥臭くのどかな様子も伝わってくる。日々の献立、物価も書かれていて興味深い。何度読んでも大好きな作品。2015/01/12
KAZOO
116
久しぶりに読みなおしました。昭和40年頃の生活状況がよくわかります。旦那さんを想う気持ち、人との付き合い方、あるいは毎日の料理などがよく描かれています。東京から富士桜高原の別荘地までを中央道がない頃に運転をされていたのですね。大したものです。2020/05/09
KAZOO
68
もう何度読みかえしたことでしょうか。何度読みなおしてもいつも新しい発見や感動を起こしてくれます。武田泰淳の奥さんの日記なのですが、このような夫婦の在り方もあるのかなあということで読んでいて楽しくなります。2014/01/19
メタボン
58
☆☆☆★ 富士山麓の山荘での暮らしがゆえ自然、特に草花や鳥などの描写が多く、癒される。やたら買い物と食べ物の記述が多いので、昭和の世相を見るには良いが、私にとってはその部分は退屈で飛ばし読み。むしろたまにヒートアップして野郎言葉になる百合子女史が面白い。自衛隊の車と衝突しそうになり罵声を浴びせた百合子女史に泰淳先生がたしなめたところ、馬鹿呼ばわりされたため泰淳先生が逆ギレし、これが女史の怒りの火に油を注ぎハチャメチャな運転になるくだりが一番面白かった。人間味が出ている。車の事故や隣人たちとの飲み会が多い。2015/09/17
ホークス
52
再読。夫(作家)、娘、愛犬との富士山荘での日々を綴る。上巻は1964〜66年。年間の3割を過ごす山麓は、素朴で暖かくて煩わしい。その裏返しで観光客の粗暴さが目立つ。日本らしい世間への過剰適応が、性差別や暴力とも相まって、今以上に露骨に感じられる。私が本書を楽しめるのは、著者の醒めた感覚、クソ度胸のお陰。自律的だし、戦争を含めた長年の苦労も偲ばれる。文章はとても歯切れが良い。悪戯を著者に咎められた男の子から「クソババア」と言われ、「クソは誰でもすらあ」と言い返す。思わずニヤッとした。ほんとに冒険的な日記。2021/07/04