出版社内容情報
中世の修道院で成立した「贖罪」は、ヨーロッパ世界に何をもたらしたのか。宗教・経済・文化からヨーロッパ精神の源をとらえる意欲作。
内容説明
中世初期、アイルランドの聖コルンバヌスによって、自らの心の内に罪を自覚し、意識的にえぐり出す思想が誕生する。この「贖罪」思想は社会に大きな影響を与え、修道院の生活を厳しく規定していく。その絶え間ない祈りと労働からは、華麗な写本も生み出された。本書は、ベネディクト戒律からカロリング・ルネサンスを経てシトー派の誕生に至るまで、修道制、修道院と王侯貴族との関係、経済、芸術等から読み解く通史である。
目次
第1章 ヨーロッパにおける修道制の崩芽
第2章 ベネディクト戒律の普及
第3章 フランク国家におけるアイルランド修道制の展開
第4章 欲望の克服から魂の贖罪へ
第5章 修道院の経済活動
第6章 筆写による古典作品の保存と写本制作
第7章 学知の研鑽と陶冶
第8章 カロリング朝修道院改革の限界とディアスポラ
第9章 新たな霊性の探究と修道院の革新
著者等紹介
佐藤彰一[サトウショウイチ]
1945年山形県生まれ。1968年、中央大学法学部卒、1976年、早稲田大学大学院博士課程満期退学。名古屋大学教授等を経て、同大学名誉教授。日本学士院会員。『修道院と農民―会計文書から見た中世形成期ロワール地方』により日本学士院賞受賞。専攻・西洋中世史。博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kasim
36
5世紀~12世紀の修道院史。最近多い、分かり易さが身上の新書ではなく、コンパクトでも最新の知見も交えた学術書という感じで、さすが中公。コルンバヌス(ネッシーに説教した人とは別)はじめ、当時のヨーロッパへのアイルランドの影響の大きさに驚いた。いわゆる暗黒時代なのに修道士はよく旅をする。修道院と地元司教や王侯との危ういバランスが生臭く、その干渉から逃れるために修道院が教皇直属を志すことが今度はローマの力を増大させる。2019/05/12
かごむし
25
5世紀から12世紀までの西ヨーロッパの修道制の歴史。興味がわかないまま本文に突入した。宗教というものが持つ本来純粋な信仰心と、社会との対応、妥協、変節、改革、純化。聖なる営みと言っても、そこには人間の顔しか出てこないことを今さらのことながら当然のことだと感じる。そして一つの切り口を持った社会の通史は筋が通っていて面白い。また、中世修道院が写本の制作センターとなっていて、当時1冊の本を作る大変な労力を思うと、今簡単に1冊の本が手に入ることが有難いことだと感じたし、読むべき本は読み切っていきたいと鼓舞された。2017/08/21
fseigojp
21
ヨーロッパ中世庶民世界のにキリスト教はどう普及していったか2017/05/18
こぽぞう☆
16
禁欲のヨーロッパの続き。このシリーズ、今のところ4冊出ているようで、GET済み。故人の禁欲から贖罪へと修行の目的は変化していく。メロヴィング朝、カロリング朝について知れたのもよかった。バイキング、マジャール人、イスラムの襲撃により、ローマ時代からの写本の多くは灰燼に帰した。また、その頃より、「写本」にあまり重点が置かれなくなる。カロリングルネサンスの後なんだな「暗黒の中世」。聖堂参事会など、普通に歴史書に書かれている言葉、組織の発祥もわかる。2019/06/03
シルク
16
なんかこの人の文章、読むのが心地よい。淡々と、淡々と。「ル・マン」だの「ベネディクト戒律」だの「聖スコラスティカ」だの、自分には馴染みの無いカタカナ語満載で頭ポワ~ンとなったりもするのだけど、それさえも眠りに入る直前の気持ち良いウトウト状態に近い。昔能楽やっていた時、老先生が語ってくれたことがある。「わしらの舞台を観に来てくれてな、お客さんらがうとうと寝てたら大成功なんや」……先生のお家の能楽堂は、京都烏丸。戦争で取り壊し予定になったけど、工事予定日が敗戦日で、危うく難を免れたという古い木造の建物。2018/06/05