中公新書
言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家

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  • サイズ 新書判/ページ数 437p/高さ 18cm
  • 商品コード 9784121017598
  • NDC分類 316.1
  • Cコード C1212

内容説明

言論界で「小ヒムラー」と怖れられた軍人がいた。情報局情報官・鈴木庫三少佐である。この「日本思想界の独裁者」(清沢洌)が行った厳しい言論統制は、戦時下の伝説として語りつがれてきた。だが、鈴木少佐とはいったい何者なのか。極貧の生活から刻苦勉励の立志伝。東京帝国大学で教育学を学んだ陸軍将校。学界、言論界の多彩なネットワーク。「教育の国防国家」のスローガン。新発見の日記から戦時言論史の沈黙の扉が開かれる。

目次

序章 『風にそよぐ葦』の神話
第1章 立志・苦学・軍隊
第2章 「教育将校」の誕生
第3章 昭和維新の足音
第4章 「情報部員」の思想戦記
第5章 「紙の戦争」と「趣味の戦争」
終章 望みなきにあらず

著者等紹介

佐藤卓己[サトウタクミ]
1960年(昭和35年)、広島県に生まれる。84年、京都大学文学部史学科西洋史学専攻卒業。86年、同大学大学院修士課程修了。87年、ミュンヘン大学近代史研究所留学。89年、京都大学大学院文学研究科西洋史学専攻博士課程研究指導認定退学。90年、東京大学新聞研究所助手。92年、同大学社会情報研究所助手。96年、同志社大学文学部社会学科助教授。2001年、国際日本文化研究センター助教授。現在、京都大学大学院教育学研究科助教授。著書に『「キング」の時代―国民大衆雑誌の公共性』(岩波書店、2002年、日本出版学会学会賞受賞、サントリー学芸賞受賞)など
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感想・レビュー

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nnpusnsn1945

42
題名とは裏腹に、実際は情報官として検閲に関わった陸軍軍人鈴木庫三少佐(最終階級大佐)の評伝。戦後は軍国主義の代理人として小説家や学者から批判されたが、実際は地位の低い輜重兵に配属されたり、理不尽なしごきを経験したゆえか、比較的理性のある軍人である。後に情報官として統制に関わったが、同時に教育で社会環境の改善を曲がりなりにも図ったとも言える。石川達三が『風にそよぐ葦』で佐々木少佐として登場させているが、事実とは違う悪役ぶりである。体制擁護ではないが、冷静に事実関係を洗い出すのも重要といえよう。2021/05/30

ステビア

19
戦前の言論弾圧の象徴とされる悪名高い人物について、日記や著書などからその生涯を丹念に辿り直した力作である。2020/08/08

ざっく

15
鈴木庫三の日記を中心に太平洋戦争中の言論統制について解説がなされている。日記の引用が多く、いつも読む本より具体性が高いため、抽象化した学びを得るのが難しかった。物質的に贅沢になると、体力や気力を失うという昭和的な根性論も全面的に否定することはできないか。鈴木庫三の目指した教育国家が、戦争の敗戦によって、より加速して建設されたのは、人間万事塞翁が馬である。鈴木庫三も日本が敗戦したため、悪役になっているが、もし日本が勝っていれば、ヒーローであったのだろう。悪役とヒーローは紙一重であるのかもしれない。2021/07/16

てれまこし

13
戦中の言論弾圧の執行者として憎まれた「鈴木少佐」は不屈の闘志と粘り強さで困難を克服し、陸軍きってのインテリ、教育のスペシャリストになった苦労人。私刑を禁じる部下思いの上司。強きをくじき弱きを守る正義漢。質素な生活に甘んじ宴会を嫌う清廉な人。非科学的な皇道派からは距離を置いてる。戦後に出版関係者や知識人の戦争協力を贖う贖罪の羊にされた。転向したプロレタリア作家と意気投合したりする。いかに戦前の左翼と右翼が近いところにいたか。個人史を通して歴史を見ると右・左とか善・悪という区別が後知恵であることがよくわかる。2020/11/08

筑紫の國造

12
今のところ、上半期のベスト本。戦後、「言論統制」の象徴として悪罵の対象となった元陸軍大佐・鈴木庫三の生涯をその日記を中心とした史料から詳細に辿る。そこから炙り出されるのは刻苦勉励によって身を起こした一人の特異な軍人の真の姿と、戦後自らの保身のために鈴木を悪役に仕立て上げた文化人たちの虚像だ。著者は、綿密に文献を検討する中で鈴木に対する悪罵の多くが誇張か虚構であることを証明してゆく。鈴木に対する誤解を解いてゆく過程は、爽快ささえ覚える。戦後の歴史観にも疑問を投げかける傑作。2023/06/16

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