内容説明
アイルランドは人口僅か350万余の小国ながら現在、世界各地に住むアイルランド系の人々は七千万を超すといわれる。現大統領メアリー・ロビンソン女史は就任演説で「七千万同胞の代表として」と抱負を語った。紀元前数世紀いらいの古いケルト文化と伝統を継承するこの国は、いま統合ヨーロッパの息吹の中で、新たな飛翔を試みている。本書は五千年に及ぶ民族の哀歓の歴史を跡づけ、北アイルランド問題の本質にも迫ろうとする。
目次
序章 古代アイルランド
第1章 中世アイルランド
第2章 イギリスによる植民地化
第3章 近世初期のアイルランド
第4章 カトリック教国アイルランド
第5章 アイリッシュ・ナショナリズム
第6章 独立運動の高揚
第7章 アイルランド自由国から共和国へ
終章 戦後のアイルランド
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
102
アイルランドというと代表チームの緑色のユニフォームにタフで懸命なプレー、酒好きの陽気なサポーターが浮かぶ。他にはU2とかケルトの遺跡、IRAのテロ事件など断片的な知識で何となくのイメージがある感じ。本書はアイルランドの人たちがどんな歴史を経てきたかを包括的に頭に入れるのに丁度いい内容だった。中世以降はイギリスとの対立関係が占めていて、政治や宗教、経済、その変遷から生まれた複雑な状況を少しばかり理解できた気がする。粗野な面を見せる一方で豊かな自然に囲まれ優れた感受性も持ち合わせる人たちにさらに興味が湧いた。2020/11/29
syaori
62
古代から現代まで、アルイランドの歴史を大づかみにできる一冊。渡来したケルト人が大陸のケルト人とは違う独自の文化を育てたことから始まって、大小の封建諸侯の争いが英国の干渉を招き、以後数百年にわたる英国との複雑な関係、北アイルランド問題についてなどが分かりやすく書かれています。心に残ったのは、米国独立戦争、仏革命によりナショナリズムが高まり大衆運動となって独立に向けて歩みを進めてゆく過程。歴史を追うだけでなく、アイルランドの国土や国民性についての記述も挟まれ、アイルランドを知る土台になってくれそうな本でした。2019/07/31
KAZOO
44
著者は新聞記者から外務省に入りアイルランド大使までを経験した人なのでこのような本を書くにはうってつけの人なのでしょう。北アイルランドの紛争しかイメージにはないのですが、この本を読むとその歴史や文化などがよくわかってきます。今まで知らなかったことが書かれていて今後も何度か読み直したくなる本です。2015/03/13
燃えつきた棒
43
ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』を読むための予備知識を得るために読んだ。おかげで、少しだけ整理できた。 先日、『ユリシーズⅠ 』の感想に 【北アイルランド紛争の影響というか、残滓のようなものを探してみることにした】 と書いたが、 そもそも、「北アイルランド紛争」とは、1969年に始まり1994年に終結した、イギリスからの分離独立を求めるIRA(アイルランド共和軍=ナショナリスト=リパブリカン=カトリック)と、→2022/03/25
kana
40
中学の頃、メリング氏著「歌う石」を読んで以来、装飾紋様やケルト神話の数々に魅せられ、憧れの国となったアイルランド。いつかかの地を訪れるために、現実のアイルランドの歴史も学ぼうと手に取った本書。その期待に応えるかのように、プロテスタントとカトリック、ユニオニストとナショナリストの終わりなき対立の歴史が簡潔に綴られ、良くも悪くもタイトルにある「物語」感はゼロ。当たり前ですが、問題は複雑で根深く一筋縄に理解は難しい。それでも国旗の緑に込められたケルトの空気を感じるために、やっぱりアイルランド行きたい。2021/12/19