内容説明
水木しげる、京極夏彦の作品の背景には、古来、日本の民俗社会が育んできた豊かな妖怪文化の伝統がある―異界に棲む鬼・天狗・山姥・狐・幽霊・河童など異形のモノたちを生きいきと絵巻や物語に表現してきた民衆的想像力が紡ぎ出す「闇」の精神史を構想する。
目次
1 妖怪文化とは何か(妖怪文化入門;「妖怪」は文化と時代を超えられるか;現代の異界と妖怪退治―民俗学の立場から;宮田登の妖怪論―『都市空間の怪異』を中心に)
2 現代の妖怪文化(水木しげると現代の妖怪文化;水木しげるの妖怪画をめぐって;時間・記憶・忘却―『千と千尋の神隠し』をめぐる断想;憑物落とし」とは何か?―京極堂シリーズのための若干のコメント;京極堂は現代のゴーストバスターか―京極夏彦『塗仏の宴』をめぐって)
3 妖怪文化研究の足跡(憑きもの;妖怪;河童;鬼;天狗と山姥;幽霊;異人・生贄;境界)
著者等紹介
小松和彦[コマツカズヒコ]
1947年東京都生まれ。1970年埼玉大学教養学部教養学科卒。1976年東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程修了。専攻は文化人類学・民俗学。国際日本文化研究センター教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
64
「妖怪文化」の入門であり、研究史の概説本。今は妖怪を文化として受容し、「楽しむ」態度も普通であるが、そのように変化していったのも、やはり水木しげるの功績であろう。もうひとり、明治時代の井上円了は、妖怪を近代科学の合理性で撲滅していく態度ではあるが、学問の対象として取り上げた功績はやはり大きい。いわゆる「学校の怪談」も、現代的な妖怪文化として、民俗学の対象になったことに、全体の流れから必然性を感じた。2019/11/21
藤月はな(灯れ松明の火)
13
人類文化学演習の発表資料として読みました。妖怪の定義や憑物の意義などの妖怪学の基本が書かれているので妖怪について詳しく知らない人でも読みやすいため、ここから分からないことがあれば専門資料を探すのがいいでしょう。京極堂シリーズの考察は「どこかで読んだことがあるな~」と思っていたら今までに読んだ京極堂シリーズのガイド本や文庫の解説からでした。2011/06/07
らむだ
5
講演記録や各書解説などをまとめた本。妖怪文化入門という書名通り、妖怪文化に初めて触れる方でもわかりやすい内容にまとまっています。なかでも、三章の「妖怪文化研究の足跡」は『怪異の民俗学』シリーズの解説の加筆修正版なので、読み応えのある内容になっています。巻末には「妖怪文化研究の足跡」の参考文献が14ページにわたって記載されているので、入門書としてとても良い一冊です。2014/02/20
朝野まど
5
怪異に対して、科学的知識が与えられると”合理”になり、恐怖や畏怖が与えられると、そこに”妖怪”が生まれる。そう考えると、妖怪を作りだすシステムというのはさほど難解ではないように思える。ただ、物や現象の輪郭に霞をかけて、畏れを付与してやればよいのだ。相手の理を超える不可思議を創り出し、科学的知識で説明しようと努力する心をへし折る、そうすれば相手は妖怪に囚われ、自らを呪うことになろう。2012/04/07
三柴ゆよし
5
はじめて小松和彦に触れる人は、これか『妖怪学新考』から入るが吉。2008/10/06