出版社内容情報
オスマン帝国崩壊によって封印から解き放たれた政治と宗教の関係という「古くて新しい問い」。その答えの一つが、イスラームの声を政治に反映させようとするイスラーム主義だった。単なる復古主義ではない、その実像に迫る。
内容説明
「アラブの春」をきっかけに、長い封印から解き放たれた政治と宗教の関係という「古くて新しい問い」。その答えの一つが、イスラームの教えを政治に反映させようとするイスラーム主義だった。オスマン帝国崩壊後の「あるべき秩序」の模索が今も続く中東で、イスラーム主義が果たしてきた役割とは。その実像に迫る。
目次
第1章 イスラーム主義とは何か
第2章 長い帝国崩壊の過程
第3章 イスラーム主義の誕生
第4章 イスラーム主義運動の登場
第5章 イラン・イスラーム革命の衝撃
第6章 ジハード主義者の系譜
第7章 イスラーム主義政権の盛衰
終章 もう一つの近代を構想する
著者等紹介
末近浩太[スエチカコウタ]
1973年生まれ。横浜市立大学文理学部卒業。英国ダラム大学中東・イスラーム研究センター修士課程修了。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科5年一貫制博士課程修了。博士(地域研究)。立命館大学国際関係学部教授。専攻は中東地域研究、国際政治学、比較政治学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
94
大学生の時に「アラブの春」が起きた時、それに関心を持っていた人々は「新しい民主主義の形だ」と希望を持って言っていた。ところがISIS台頭やシリアへの爆撃、エジプトでの民主主義政策が失敗するなどを知るにつれて事態は悪くなる一方、彼等が困惑していたのを覚えている。元々、寛容であったイスラーム。それが現実と原理に添う形で解釈され、変えられ、アメリカなどの列強国によって繋がれ、使い捨てにされる内に二極化し、それが世界に波及していった歴史が分かりやすく、提示されています。9.11後の「無知の衝突」が一番、胸に答える2018/04/25
どんぐり
62
独裁政権、テロリズム、宗派の違いを軸にした内部抗争など、イスラ-ム圏には常にきな臭い感じがつきまとう。イスラームの宗教と国家とは、どんな関係にあるのか、そこにあるイスラーム主義とはどういうものなのか、興味深く読んだ。イスラーム主義は、「宗教としてのイスラームへの信仰を思想的基盤とし、公的領域におけるイスラーム的価値の実現を求める政治的イデオロギー」のことである。これに対して、「宗教の違いによって個人の自由や権利が制限されたり侵害されたりしてはならない」とする政治と宗教の分離を掲げるのが、世俗主義(セキュラ2019/02/25
樋口佳之
26
「イスラームの戦い(ジハード)」と「テロとの戦い(対テロ戦争)」に共通するのは、それぞれ相手のことを知悉することなく安易に敵視し、暴力でもって対峙しようとする姿勢である。二〇〇〇年代の世界を席巻した両者の対立は、「文明の衝突」ならぬ「無知の衝突」( サイード) に過ぎなかった2018/07/03
skunk_c
25
イスラーム主義という「イデオロギー」の形成過程と現状について、その宗教性と政治性の両方に目配せをして、中東社会を把握しようとする概説書。1章の問題提起が明確で、極めて読みやすかった。また、イスラーム主義の系譜は詳しく知らなかったことが多く勉強になった。しかし本書の白眉は、このイスラーム主義という視角から、中東の現状を見事に説明していることだ。切り口が違うのに酒井啓子氏と結論はほぼ同じになっているのだが、中東をより良く理解する手法としての本書のアプローチは成功していると思う。中東理解へのお薦めの1冊だ。2018/04/01
おおた
21
イスラームの人たちが西欧の影響を受けた後に「あるべき国家」を模索し続けているという指摘に驚く。ムスリムは宗教と生活が密接に関連しているから、彼らは国=あるべき様態と自然に受け入れるのかと。中東戦争の第一世代、80年代頃の第二世代を経て、現在はISISが大きな影響力を持つ第三世代として、コーランの解釈が変わって戦争・テロを(多くの人が誤っているとわかっていても)推奨する人たちが力を持つという時代になっているという。破壊の後に何が残るのか、歴史を学ばない・勝手に解釈することの恐ろしさを今の日本に重ねてしまう。2018/03/02