紀伊國屋書店出版部4月の新刊『トーマス・マン日記 1953-1955』
マンの死後20年経った1975年に初めて公にされた膨大な量の日記を、編集者の手を加えずにそのままの形で公刊したものに詳細な注が付された本シリーズは、ドイツ文学研究に必備の資料であるとともに、激動の時代を証言した、ヨーロッパ精神史上の貴重なドキュメントでもあります(邦訳の刊行開始は1985年)。
本巻は、死の二週間前まで書き継がれた最晩年の日記。
躊躇、逡巡の末、マッカーシー旋風吹き荒れるアメリカから、東西対立がなお市民生活に暗い影を落とすスイスへと移り住んだマンが、鬱陶しい政治状況、また老いにより衰えゆく力を自覚しながらも、レジョン・ドヌール勲章受章、ピオ十二世との謁見などの「祝宴」に鼓舞され、旺盛に執筆活動を続ける日々が綴られます。