書評で読む

知識より 読書が大事 『検証・学歴の効用』【ノンフィクションはこれを読め!HONZ】

検証・学歴の効用

検証・学歴の効用

濱中淳子 / 勁草書房
2013/06出版
ISBN : 9784326653812
¥2,940 (税込)

本棚に登録 カートに入れる 店頭在庫検索 電子書籍はこちら

学生の学力低下を問題視するあまり、世論の大勢が教育過剰論へと傾いている。しかし、大学は本当に多すぎるといえるのか。もはや学歴に意味はないのか。詳細なデータ分析から、大卒のみならず、専門学校卒や院卒といった学歴の効用を明らかにし、学歴に対するまなざしを歪ませた背景にまで迫る。現状に警鐘を鳴らす学歴社会論、誕生!

新HONZロゴ.jpg

学歴が無用だとか、学歴なんか意味がない、と言われるとどきっとする。大学で禄を食んでいる者としては、『売り物』を否定されるようなものなのだから当然のことだ。しかし、本当のところはどうなのだろうか。どうも優勢な気がする学歴否定派は、学歴があってもこんなアホがおる、とか、学歴がなくてもこんなにすばらしい人がいる、とかいう少数のイメージで論じているようなところはないだろうか。

学歴肯定派が劣勢に見えるのは、学歴に効用がある、ということを何度繰り返しても、ふうん、と思われるのが関の山だからだろう。とはいえ、学歴肯定的な自分の考えも、こうであってほしい、というだけで、なにかエビデンスをもっているわけではない。意外なことに、序章にあげられているデータは、学歴による収入差は次第に増加している、すなわち、学歴の効用が増していることを示している。にもかかわらず、その間に、学歴の効用を問う方向性が高まっているのは不思議なことだ。

学歴についてなんとなく思われているイメージが現実を反映しているかどうかを、教育学の専門家がいろいろな調査やアンケートから明らかにしていくのがこの本である。そのような調査でほんとうに信頼できる結論が得られるのかと思わないでもない。しかし、少なくとも単なるイメージで語られるような結論よりは正しいはずだ。

『高卒と大卒は何が違うのか』、『出世する大卒・しない大卒』、『大卒人材と読書』、『女子と学歴』、『専門学校への進学は「得」なのか』、『院卒という学歴は「使えない」のか』、という六つのテーマについての結果と考察が示されている。専門学校卒業生は、収入面では高卒と比較して、収入面においてそれほど大きな違いはないが、免許が必要な職についた人の満足度は非常に高い、とか、女子は高学歴ほど配偶者の収入が高い、とか、大学院卒は就職に有利にならない、などなど、ほぉ~、あるいは、ふむふむ、と呟きたくなる内容が満載である。

『高卒と大卒は何が違うのか』では、高卒者は他者との関わりの中で成長する傾向が強く、大卒者は自己学習で成長する傾向が強いことが示されている。おそろしいことに、というべきか、やっぱり、というべきか、『出世する大卒・しない大卒』の章では、大学で学んだ知識は所得に反映されることはない、と結論づけられている。それどころか、学部によっては、知識があった方が収入が少なくなるというマイナス効果すらあるらしい。ほんまかいな、であるが、知識や情報というのは日進月歩であるから、ある程度はそういうこともあるのかもしれない。

これら二つの章からわかることは、大卒者にとって重要なことは、学歴や大学時代に得た知識そのものではなく、自己学習できるかどうかである、ということだ。HONZ的にいちばん気になるのは、自己学習の中核である読書の効用を考える、という観点から描かれる『大卒人材と読書』だ。読書といっても雑多であるから、思想書、純文学、歴史・ノンフィクション・ドキュメンタリー、マンガ、ビジネス書、専門書、趣味・娯楽書、の7ジャンルに分けて考察されている。

おおむね『読書に熱心だった人ほど、人材としての価値が高くなる』のではあるが、例外がある。マンガと趣味・娯楽書の二ジャンルについては、読書量と所得との間に負の相関、すなわち、たくさん読んでいた人ほど所得が低くなる傾向があるのだ。"読書界の鬼才"成毛眞の『そもそも知的な人間は漫画なんて読まないよ。』というPRESIDENT誌における発言が猛反発をくらったらしいが、少なくともマンガを読む習慣と収入には関係があるようだ。

大学時代に学ぶ習慣を身につけた人は、その後も学び続けてキャリアアップしていける、というのと同じく、読書の習慣も持続する。大学時代というのは、時間的な余裕がある。その間に、マンガや娯楽書を読むのではなく、まともな本を読みましょう、ということだ。HONZを読むような人にはよもやいまいとは思うが、あっちゃ~今ごろ言われてもなぁという人がもしいれば、気持ちを入れ替えて、HONZで紹介される魅力的な本をどんどん読んで遅れをとりもどしてもらいたい。

もうひとつのおもしろい結論は、大学時代に専門書を読んでいた人は、将来、思想書やビジネス書も読むようになる、ということだ。うれしいではないか。読書など単なる習慣に過ぎないという人もいる。確かに単なる習慣だけれど、身につけておいて決して損ではない習慣なのである。大学では、読書に代表されるように、学び方を学ぶ、ということが大事なのだ。ふだん、学生に厳しく指導していることを証明してもらえたようで、うれしく読み終えた。

なんとか大卒の学歴、という言い方をするけれど、日本の大学の現状を考えると、正しくは、その大学にはいれたことを示す学歴、にすぎない。おそらく、これが日本の大学における最大の問題点ではないかと常々思っている。そういったことも頭にいれた上で、『学歴と健全につきあう』必要があるという提言を心にしっかり刻み込んでおきたい。

(『ノンフィクションはこれを読め!HONZ』2013年8月22日掲載)

仲野 徹
1957年、「主婦の店ダイエー」と同じ年に同じ町(大阪市旭区千林)に生まれる。大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ。京都大学医学部講師などを経て、大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/nakano/
ノンフィクション、とりわけ伝記が好き。それが昂じて専門誌に「なかのとおるの生命科学者の伝記を読む」を連載。単行本(学研メディカル秀潤社)として上梓したところ、成毛代表の目にとまりHONZに参加。書籍購入費の抑制、および、仕事と飲酒と読書のバランスとれた鼎立、が永遠の課題。

HONZの本『ノンフィクションはこれを読め!』発売中です!

ノンフィクションはこれを読め! HONZが選んだ150冊

ノンフィクションはこれを読め! HONZが選んだ150冊

成毛真 / 中央公論新社
2012/10出版
ISBN : 9784120044274
¥1,365 (税込)

本棚に登録 カートに入れる 店頭在庫検索 電子書籍はこちら

成毛眞のもとに集った精鋭レビュアーによるノンフィクション書評サイト「HONZ」の年間ベストを集大成。読むべき本はここにある。
※HONZのサイトはこちら

2013.09.04 書評で読む  まなび 社会

<