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核兵器もコンピュータも、ここから生まれた - 『チューリングの大聖堂』【ノンフィクションはこれを読め!HONZ】

チュ−リングの大聖堂 コンピュ−タの創造とデジタル世界の到来

チュ−リングの大聖堂 コンピュ−タの創造とデジタル世界の到来

ジョージ・B.ダイソン、吉田三知世 / 早川書房
2013/02出版
ISBN : 9784152093592
¥3,675 (税込)

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高等研究所などに収められた詳細な文献や写真資料、豊富なインタビュー取材をもとに、大戦後の混乱でこれまで必ずしも明らかでなかった歴史事情や、知られざる人々の肖像をちりばめて綴る、決定版コンピュータ「創世記」。

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期せずして、同じ時、同じ場所に、同じレベルの才を持つ者が集まると、想像を絶する出来事が起こることもある。

1953年、3つの技術革命が始まった。熱核兵器、プログラム内蔵型コンピュータ、そして、生命体が自らの命令をDNAの鎖にどのように保存するかの解明である。これら3つの革命は相互に絡み合い。その後の世界を大きく変えることとなる。

とりわけそれ以前から密接に結びついていたのが、熱核兵器とプログラム内蔵型コンピュータである。かつて数学と物理が相互に進化を促しあったように、両者はがっちりと手を組み、怪物のようなものをこの世に生み落としたのだ。

背景にあったのは、第二次世界大戦における反ナチスおよび、その後の冷戦構造による人材の集結である。アインシュタイン、オッペンハイマー、ゲーデル、チューリング、ファインマン。これらの錚々たるメンバーが、人種や学問の壁を越え、プリンストンの高等研究所を中心とする舞台で、一堂に会すことになるのだ。

その中でもひときわ異彩を放っていた数学者集団がいる。6人のメンバーによって開かれた、高等研究所の電子計算機プロジェクトにおける第一回目の会合は、その後のコンピュータの運命を導き、現在に至る約60年間のデジタル宇宙の扉を開くことになるのだ。

デジタル宇宙の創世記のような趣を持つ本書の魅力は、デジタル宇宙の誕生以前にそれを夢想していたものの姿、そして現実世界では特定することの難しい創造主の姿が露わにされているということである。

その創造主の一人がフォン・ノイマンだ。史上最強の天才、あまりの頭の良さに「火星人」「悪魔の頭脳」と言われた男。数学・物理学・工学・経済学・計算機科学・気象学・心理学・政治学とあらゆる分野で天才的な才能を発揮した。試しにネットで「フォン・ノイマン 伝説」などと打ち込んでみると、仰天エピソードがいくつも出てくる。

  • 6歳のとき、電話帳を使い8桁の割り算を暗算で計算することができた。
  • 8歳の時には『微積分法』をマスター、12歳の頃には『関数論』を読破した。ちなみに『関数論』は、大学の理工系の学生が1、2年次に学ぶ数学で、高校時代に数学が得意で鳴らした学生でも、完全に理解できる者は少ない。
  • 一度見聞きしたら、決して忘れない写真のような記憶力。
  • コンピュータ並みの計算速度。実際、ノイマンは、自らが発明したコンピュータとの競争に勝利し、「俺の次に頭の良い奴ができた」と喜んだ。
  • 水爆の効率概算のためにフェルミは大型計算尺で、ファインマンは卓上計算機で、ノイマンは天井を向いて暗算したが、ノイマンが最も速く正確な値を出した。
  • 脳内には装着された面積1ヘクタールほどもあるバーチャル ホワイトボードがあり、ノイマンは、紙と鉛筆を使わず、この脳キャンパスだけで、人間が及びもつかない複雑で込み入った思考をすることができた。
  • アインシュタインやハイゼンベルクなどなど、稀代の天才たち全員が「自分たちの中で一番の天才はノイマンだ」と言った。(ノイマン自身はアインシュタインが一番だと言っていた)
  • 一日4時間の睡眠時間以外は常に思考。
  • セクハラ魔で有名で秘書のスカートの中を覗くが趣味で、その振る舞い方は下品そのものだった。
  • ノーベル経済学賞受賞者ポール・サミュエルソンの教科書をみて「ニュートン以前の数学ではないか」と言って笑った。
  • ノーベル経済学賞受賞者ジョン・ナッシュのナッシュ均衡に関する歴史的論文を一瞬見て「くだらない、不動点定理の応用ではないか」と貶めた。
  • フォン・ノイマンの専門領域をあえて一つに絞るなら、数学を論理学の上に厳密な形で位置づけようとする「数学基礎論」という分野になるだろう。数学を論理学の中に包含してしようとするこの考え方は、形式主義とも呼ばれている。

    この分野で最も知られた研究者が、ダーフィット・ヒルベルトであった。彼は数学全体の完全性と無矛盾性を示すために、数学そのものを形式化しようと考えたのである。

    これに影響を受けたのが、チューリングマシンで有名なアラン・チューリング。彼は「計算可能性」という観点からこの問いを論じ、あらゆる計算を可能にする機械が作れることを証明した。これは数という世界において大きな転換点となる出来事であったのだ。

    チューリング以前は、物事を行なって、それを数で表していた。だがチューリング以降は、数が物事を行うようになったのである。そして、このチューリングマシンの理論を、現実の装置として創りあげたのがフォン・ノイマンであった。

    フォン・ノイマンの最大の特徴は、形式の権化のような人物であったということである。それは彼の守備範囲が多岐にわたるということとも、密接に結びついている。彼の本質が内容ではなく形式にあったからこそ、意味や目的を問わない一面があったのだ。

    それゆえの熱核兵器であった。水爆製造競争は、コンピュータを作りあげたいというフォン・ノイマンの願望によって加速され、同時に水爆製造競争が、フォン・ノイマンのコンピュータを完成させろという圧力を一層強めたのである。

    一方で自身の手によってもたらされた結果を、フォン・ノイマンがどのように受け止めていたのかという点も興味深い。これを回想しているのが、リチャード・ファインマンである。

    フォン・ノイマンから面白いことを教わった。『自分が存在している世界に対して、責任を負う必要はない。』というアドバイスだ。このアドバイスのおかげで、わたしは非常に強い社会的無責任感というものを持つようになった。それ以来わたしは、幸せきわまりない男となった。

    かくしてデジタル宇宙と水素爆弾は誕生したのだ。最も破壊的なものと最も建設的なものが、それを追求した男の必要性と偏執狂的な熱意によって同時に登場するとは、なんという運命のいたずらだろうか。

    本書ではこの他にも、フォン・ノイマンのコンピュータでどのようなものが計算されたのかということが事細かに描かれている。数値気象予測実現を目指す取り組み、バリチェリの数値生命体の研究、今日のサーチエンジンやソーシャル・ネットワークの原型となるようなものも、フォン・ノイマンの業績に確認することができる。

    宇宙生誕の時から今日まで、およそ137億年。その歴史の全貌を詳細に把握することは、あまりにも困難である。だが、本書を読むにつれ感じたのは、約60年に過ぎないデジタル世界の歴史が、宇宙の歴史そのものを自己複製したようなものではないかということだ。

    自己複製を行う過程においては様々な偶然性が入り込み、歴史は予測もつかない方向へと進化を遂げたことだろう。ゆえに我々の宇宙も、デジタル宇宙も、この先の行く末は全く分からない。それでも歴史が枝分かれすることになった分節点からは、決して逃れることが出来ないのである。


    集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ

    集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ

    西垣通 / 中央公論新社
    2013/02出版
    ISBN : 9784121022035
    ¥861 (税込)

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    インターネットによる集合知の出現は何をもたらそうとしているのか。基礎情報学を中軸に据え知の変貌と近未来社会のすがたを展望する。

    『チューリングの大聖堂』の副読本としておすすめなのが本書。数学基礎論とコンピュータの関係が、分かりやすく解説されている。

    数学的推論が世界を変える 金融・ゲ−ム・コンピュ−タ−

    数学的推論が世界を変える 金融・ゲ−ム・コンピュ−タ−

    小島寛之 / NHK出版
    2012/12出版
    ISBN : 9784140883945
    ¥819 (税込)

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    「数学的推論」とは何か? それは経験則でも山勘でもなく、数理論理学やゲーム理論をベースに次の一手を読む技術。コンピューター同士の推論合戦が本格化しつつある現在、それは巨額の利益とも結びつく一方で、大きなリスクをも引き起こす。日常の行動から経済情勢まで、今世紀をエキサイティングに変える、数学的推論の可能性と限界に迫る。

    金融、ゲーム、コンピュータ、これら3つをつなぐキーワードが、推論というもの。レビューを書こうと思っていたら、3ヶ月が過ぎてしまった。

    プリンストン高等研究所物語

    プリンストン高等研究所物語

    ジョン・L.カスティ、寺嶋英志 / 青土社
    2004/12出版
    ISBN : 9784791761586
    ¥2,310 (税込)

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    アインシュタイン、ゲーデル、オッペンハイマー...超一流の知性だけが招聘される研究者の理想郷プリンストン高等研究所。その静かな学究的雰囲気が、フォン・ノイマンによるコンピュータ開発の画期的プロジェクトをめぐって沸騰する。未知なる観念と構想に関わる激論によって浮上する、科学者の社会的責任、そして知識の限界という究極の認識が意味するものとは―。

    これは未読なのだが、興味深い一冊。プリンストン高等研究所を舞台に20世紀初頭における科学界の熱気を、小説仕立てで。

    囚人のジレンマ フォン・ノイマンとゲ−ムの理論

    囚人のジレンマ フォン・ノイマンとゲ−ムの理論

    ウィリアム・パウンドスト−ン、松浦俊輔 / 青土社
    1995/03出版
    ISBN : 9784791753604
    ¥2,730 (税込)

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    国家間の紛争から企業や個人間の対立する利害までを、数学的に解析するゲーム理論。その成立と展開を、創始者フォン・ノイマンの生涯、冷戦時代の米ソ対立などと重ねて描いたドキュメント。

    ケンブリッジ・クインテット

    ケンブリッジ・クインテット

    ジョン・L.カスティ、藤原正彦 / 新潮社
    1998/09出版
    ISBN : 9784105900052
    ¥1,995 (税込)

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    1949年、イギリスのケンブリッジに、知の巨人たち5人が集まった。物理学者C・P・スノウ、哲学者ヴィトゲンシュタイン、遺伝学者ホールデイン、ノーベル物理学賞のシュレーディンガー、数学者チューリング。彼らはディナーを共にしながら、人工知能の可能性について、白熱する議論を闘わせた。小説の未来を切り拓く話題作。

    上記二冊は、レビュー公開後に仲野先生から教えていただいたもの。

    (『ノンフィクションはこれを読め!HONZ』2013年3月11日掲載)

    内藤 順
    HONZ理事。1975年2月4日生まれ、茨城県水戸市出身。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。広告会社・営業職勤務。好きなジャンルは、サイエンスもの、スポーツもの、変なもの。好きな本屋は、丸善(丸の内)、東京堂書店(神田)。はまるツボは、対立する二つの概念のせめぎ合い、常識の問い直し、描かれる対象と視点に掛け算のあるもの。ブログ:http://blogs.itmedia.co.jp/naichi/

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    ノンフィクションはこれを読め! HONZが選んだ150冊

    ノンフィクションはこれを読め! HONZが選んだ150冊

    成毛真 / 中央公論新社
    2012/10出版
    ISBN : 9784120044274
    ¥1,365 (税込)

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    2013.04.10 書評で読む  

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