皆さま、お正月はどのように過ごされたのでしょう?
海外旅行へ行ったり、帰省したりと、家族とのんびり過ごす時間が持てるお休みだったのではないでしょうか? さて、そんな「家族とゆっくり過ごす時間」ですが、近しい仲ほど、うまく行かないことってあります。家族に甘え過ぎてしまったり、逆に気を使い過ぎてぎくしゃくしてしまったり、はたまた正月早々、口喧嘩なんてして泣きたくなってしまったりと...。そんなうまく行かなかった方々すべてに送る「母と娘の本」をあつめてみました。以前、このサイトでも紹介された港かなえ氏の『母性』の記事と併せてお楽しみ下さい。
文芸作品からみる母と娘
昨年のベストセラーや文芸賞の受賞作を見てみると「母娘」をテーマにした作品が多くありました。話題の三作品とちょっと風変わりな SFお母さんホラーをご紹介します。ノンフィクションではなく、あえて文芸作品をとおして「母娘問題」を見つめてみると、いままでなんとなく感じていたもやもやの正体も見えてくるかもしれません。
心を込めて。私は愛能う限り、娘を大切に育ててきました──。
(『母性』本文より)
母性
湊かなえ / 新潮社
2012/10出版
ISBN : 4103329114
¥1,470 (税込)
「愛能う限り」という美しい言葉に、ぞっとするものを感じるのは私だけでないはず。持つものと持たないもの。欲するものと欲さないもの。二種類の女性、母性芽生える人と排除してしまう人。それを巡る母の記録と、娘の記憶、あるいは探索の物語。娘時代を過ごしたことのある人なら、きっと切なくなってしまうでしょう。
母の遺産 新聞小説
水村美苗 / 中央公論新社
2012/03出版
ISBN : 4120043479
¥1,890 (税込)
読売新聞で連載されていた当時から話題になっていた本書は、第39回大佛次郎賞の受賞作品です。尾崎紅葉の『金色夜叉』のヒロインお宮と自分を重ねた祖母、『ボヴァリー夫人』のような母、老後のケアに直面する姉妹、女三代に渡ってのストーリーです。フィクションではありますが、生きていく上で直面せざるを得ない問題に対して、微に入り細を穿つ描写は、半自叙伝とも読めてしまう一冊です。
東京プリズン
赤坂真理 / 河出書房新社
2012/07出版
ISBN : 4309021204
¥1,890 (税込)
第66回毎日出版文化賞、第16回司馬遼太郎賞の受賞作品。「私の家には、何か隠されたことがある。そう思っていた。」と感じている娘、16歳のマリが挑む現代の「東京裁判」。「東京裁判」で通訳を務めた経験を持つ母と、アメリカへ留学した娘。言葉にできないもどかしさや喪失感、日本の戦後史を、時空を超えた母娘の関係を通して織りなす私小説。
母の発達
笙野頼子 / 河出書房新社
1999/05出版
ISBN : 4309405770
¥630 (税込)
「あ」のお母さんから「ん」のお母さんまで、分裂しながら増殖し、挙句、「母の大回転音頭」にまで発展する。といったら何が何だか判りませんが、空前絶後の言語的実験を駆使して「母性の呪縛世界」を解体する無敵の爆笑お母さんホラーが、この本です。スカっと気分が晴れ渡る読後感に浸れます。巻末に収録された斎藤美奈子氏の解説も読み応えのある一冊。
信田さよ子で読む
とかく「愛」や「母性」という言葉は神聖視されがちです。だからこそ、時として息苦しく重荷に感じてしまったり、そう感じてしまう自分を嫌になってしまったりすることがあるのかもしれません。「共依存」「過干渉」といった母娘問題における第一人者と言っても過言ではない信田さよ子氏による三冊をご紹介します。
ザ・ママの研究
信田さよ子 / イ−スト・プレス
2011/10出版
ISBN : 4781690122
¥1,050 (税込)
「中学生以上」の読者を対象にした「よりみちパン!セ」シリーズからはこの一冊。ママのタイプ分けから、その傾向と対策、観察と対象化の方法を、あたかも自分が授業中大学ノートに書き取ったかのように紹介する。ママと仲良く、楽しく付き合っていくために役に立つ一冊です。
ご存知「墓守娘」シリーズ。2008年に刊行され、幾度となく増刷されたベストセラーにしてロングセラーの本書『母が重くてたまらない』は、カウンセリングの経験を基に、それぞれのケースを紹介しながら分析。「ああ、こんな息苦しさを感じるのは、私が特別悪い人間だからではないのだ」と感じるのではないでしょうか?。
母娘問題に限らず、夫婦やカップルにも思わずぎくりとさせられる、この「共依存」をテーマにまとめられた一冊。「共依存」という言葉を使ってはいるものの、その実、それは「支配」であると本書が教えてくれる。しかしながらこの「共依存」という言葉こそ、他者との関係性について困ったとき、解決のヒントを与えてくれます。
海外にもある親子問題
「結婚はいつするの?」「だからダメなのよ」「親戚やご近所に恥ずかしいわ」なんて言葉で、盆暮れ正月時に「親」とぎくしゃくしてしまうことが多々ある、日本のサイクルですが、欧米でも、「サンクスギビングの里帰りに今から気分が重くなる」とか「クリスマス休暇で実家へ行っても、どうせ母親と喧嘩するだけ」なんてことがあるようです。古今東西を問わず、家族間の問題は尽きません。そこで、海外からは二冊ご紹介。
とにかく「自己愛」の強い母を持ったら、あるいは「自分がそうなのかもしれない?」と感じたら是非手に取って欲しい一冊です。どんなときだって「自分が一番、世間体が何より大事で娘の気持ちはおかまいなし。そんな自己愛の強い母親から上手に離れる方法の指南書です。カウンセリングの事例と併せて、数々のハリウッド映画や文芸作品からケーススタディが紹介され、つい次から次へとチェックしたくなります。
毒になる親 一生苦しむ子供
スザン・フォワ−ド、玉置悟 / 講談社
2001/10出版
ISBN : 4062565587
¥819 (税込)
上でご紹介した本よりも、もう少し問題が深刻な場合にうってつけではないでしょうか?「 "不幸な子供時代" を送ったあなたへ。親に奪われた人生を取り戻す衝撃の一冊」と帯で紹介されるとおり、「過干渉」や「言葉の暴力」から始まり、「DV」や「アルコール中毒」「性的虐待」などのケースまで深く切り込んだのが本書です。「理解しなくては」「許さなければならない」の呪縛をするりと解くと評判の一冊。
おまけの二冊
私は母さんがこんなに呆けてしまうまで、手にさわった事がない。四歳位の時、手をつなごうと思って母さんの手に入れた瞬間、チッと舌打ちして私の手をふりはらった。私はその時、二度と手をつながないと決意した。その時から私と母さんのきつい関係が始まった。
(『シズコさん』本文より)
息詰まってしまったとき、そっと背中をさすってくれるような読後感を持つ二冊です。
母がしんどい
田房永子 / 新人物往来社
2012/03出版
ISBN : 4404041691
¥1,000 (税込)
著者の私小説コミックエッセイ。「これはしんどいよね」とも言える内容も、いわゆる癒し系ヘタウマ漫画だからこそよめてしまうし、共感もできるのではないでしょうか? 「お母さんが重苦しい」と感じる主人公エイコが、失敗を繰り返しながらお母さんから逃げ切るまでを綴った戦いの記録です。
シズコさん
佐野洋子 / 新潮社
2010/10出版
ISBN : 4101354154
¥452 (税込)
『百万回生きた猫』の著者、佐野洋子氏の筆致は、いつもどこか俯瞰して世の中を見るような独特の雰囲気がある。この『シズコさん』もそうである。シズコさんとは、著者の実の母親のこと。色んなことを客観視して、自分のことさえ俯瞰してみるのに、シズコさんのことはなかなか客観視することができなかった佐野洋子氏の独白の記。「もっとこの人の本を読み続けたかったなぁ」と思うのだ。
さて、今回の「母娘」特集いかがでしたか?
母や娘以外でも、「善かれ」と思ってした行為が、かえって「仇」となるそんな経験をした人なら、誰だって頷けるポイントの多い問題ではないでしょうか? また、「母娘」をキーワードにご紹介しましたが、その実、根っこのところには「父親不在」という重要なファクターがあるようです。「お母さんもまた生身の人間なのだ」と理解をより深めることと、それをいつ「許す」のか「許さない」のかは別次元です。袂を分かち自分の道を歩むのも良し、受け入れ、共に歩むのもまた良しなのです。これらの本をとおして「すべては、その時必要と自分が思うに身を任せてみても良いのだ」と思ったお正月でした。今回ご紹介した特集が、そんなことをじっくり考えることの一端を担えることができれば幸いです。
(編集部 奥村知花)