紀伊國屋書店新宿本店3階の月がわりブックフェア「じんぶんや」、今月の選者は立岩真也さん。「身体に良き本――主に運動の方面から」というテーマで、じんぶんやにエッセイをいただきました。
立岩さんエッセイ《「選書」にあたり》

私がずっと書いてきているのは、所有・分配について、それと「能力」との関わりについてということになります。この主題についての本たちも、もちろん、それなりにあります。しかし、その方面なら、僣越ながら、まず拙著を読んでいただければよいのかなと。そこには、幾分か偏ってますし、世界中というわけにもきませんが、いくらか文献もあげてありますから、それを手がかりにしていてもらえればよいかなと思います。
そこで今回は、そんなことにも当然関係ある、つまり私たちの社会における所有・分配の仕組みのもとではいちばんわりを食う人たちでもある障害――能力 ability → 障害 disability ――を有する人について、というより多くその人たちが書いた本を中心に集めることにしました。一つ覚えのように――というとわるい言葉のようですが、そんなことはない――「能力主義」という言葉で批判を繰り返してきたのもその人たちであり、私はそれが基本的に当たっていると思って、やってきたのだと思います。それは単純だけれども腹がすわっていて、もっともだと思って、そしてそこまで開き直った主張は、世界中みてもそうなされていない気がします。(そんな事情も関係するのでしょうか、英語でちょうどよい言葉はなかなか見当たらないのですが、このところ ablism という言葉を使う人たちもいるみたいです。)
さらに障害には「できない」という面だけでなく、「かたちが違う」とか、あって、さらに病には「痛い」とかそんなこともある。死んでしまうこともあるし、犯罪に結びつけられることもある。そいうことをひとまず分けて考えていく必要があると私は思っていて、ぼつぼつとそういう仕事ができればとも思っています。
そのためにも、人が何を語り、叫び、書いてきたかを知ったほうがよい。そこで、私は勤め先そのほかで、昔のことを調べて書こうと言ってきました。たしょうそういうこともあり(その「成果」が出ていくのは今後になるでしょう)、べつにそんなことと関係なく、ここ数年、そんな本がいくらか出るようになりました。多くは私が直接に知る人たちで、今回の選書はしょうじき、えこひいきっぽいところがある、すくなくともそう思われても仕方がない。しかし、でも、読んでもらったらと思って選びました。その際、多くの人に知られている(と私は思う)名著、売れた本、売れてる本はあえて外しました。
選んだ本の本としての完成度はかなりばらつきがあります。でもそんなことはすくなくとも一番大切なことじゃないだろうと。まず1冊、いや2冊なら、横塚『母よ!殺すな』、吉田『「精神障害者」の解放と連帯』でしょうか。その「時代」のものなので、書き口や用語は(とくに吉田の本の場合)今風ではありませんが、そんなこともどうでもいいだろうと。最後についでに、私たちの「センター」で『生存学』という雑誌を出しています。おもしろいです。よろしく。
立岩真也(たていわ・しんや)さんプロフィール1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。現在、立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。専攻:社会学
著書:『私的所有論』(勁草書房、1997年)、『弱くある自由へ─自己決定・介護・生死の技術』(青土社、2000年)、『自由の平等─簡単で別な姿の世界』(岩波書店、2004年)、『ALS─不動の身体と息する機械』(医学書院、2004年)、『希望について』(青土社、2006年)、『所有と国家のゆくえ』(稲葉振一郎との共著)(NHKブックス、2006年)、『良い死』(筑摩書房、2008年)、『流儀─アフリカと世界に向かい我が邦の来し方を振り返り今後を考える二つの対話』(稲葉雅紀・山田真との共著)(生活書院、2008年)、『唯の生』(筑摩書房、2009年)、『生存権─いまを生きるあなたに』(岡本厚・尾藤廣喜との共著)(同成社、2009年)、『税を直す』(村上慎司・橋口昌治との共著)(青土社、2009年)、『ベーシックインカム─分配する最小国家の可能性』(齊藤拓との共著)(青土社、2010年)、『人間の条件─そんなものない(よちみちパン!セ)』(イースト・プレス、2010年)、『家族性分業論前哨』(村上潔との共著)(生活書院、2011年)他
年齢、性別、障害...現代社会につきまとう様々な差異をどう扱うのか。
とくに医療・福祉の場で争点となる「有償/無償」問題を腑分けし、税の分配、ベーシックインカム、労働と支払いの関係の見直しなど、いま考えられるすべてについて議論を尽くす、立岩社会学の到達点。【Bookweb書誌より】
立岩真也さん選書・コメント
「精神障害者」の解放と連帯
吉田おさみ / 新泉社
1983/12出版
ISBN : 9784787783158
¥1,575 (税込)
立岩真也さんコメント 深い理論的洞察。自らの経験。1970年代から始まる精神障害者たちの運動を知るためにも。
自閉症とは何か
小沢勲 / 洋泉社
2007/08出版
ISBN : 9784862481832
¥5,670 (税込)
立岩真也さんコメント 村瀬学氏らの尽力によって復刊なった大作。ここから今何が言えるのか私にはわからない。だが(だから)大切。
助産婦の戦後
大林道子 / 勁草書房
1989/04出版
ISBN : 9784326798636
¥3,570 (税込)
立岩真也さんコメント 助産師の位置の変化へのGHQの介在、さらに遡ると米国の優生思想にも行き着く。もう聞き取り、書かれることのできない名著。
立岩真也さんコメント まあ過激、ということになるのでしょう。でも、「べてるの家」の本読んで感心する人はこういうのも読まねばなりません。
生きることのはじまり
金満里 / 筑摩書房
1996/08出版
ISBN : 9784480042033
¥1,155 (税込)
立岩真也さんコメント 恥ずかしながら彼女が主宰する劇団「態変」の公演を見たことがない。しかし一度聞いたら忘れないそれを始めたいきさつその他々。
立岩真也さんコメント 「論点を次第にしぼってついにこれ以上はしぼれない一点があるはずだ」(p.384)。私にはまだわからない部分があるけれども。
立岩真也さんコメント ナチス政権下における障害者殺害の詳細にされだしたのはドイツでも1980年代になってだという。まずれはこれを読みないが読む。基本文献。
立岩真也さんコメント 尊厳するのは横塚晃一と吉田おさみと高橋修。高橋は自ら文章を書かない人だった。それで彼の章は私が書かせてもらった。
立岩真也さんコメント 例えば、ウーマン・リブについて、田中美津について、何も知らないというのはやはりよからぬことであると思う。
立岩真也さんコメント 今はボランティアでというのは比較的少なくなっている。だが、そんなことはともかくこんな世界がある。
立岩真也さんコメント 手話が私の言語だと居直れればよしとして、聞こえないが聞こえることにしてことは進んでしまったりもする。苦い話だ。しかしそれが現実。
立岩真也さんコメント ハンチントン病は厳しい病気だが、遺伝性で、筆者には発症する半分の可能性があり、それを遺伝子検査で知ることができる。
立岩真也さんコメント 私も対談させていただいた。横浜でもうすぐ80年の横田さんの昔話を聞き出すことに熱心すぎて、横田さんお気にめさず、収録されたのは二度目の対談。
立岩真也さんコメント どうして刺して死なせたか。やはりわからない。その感じはずっと残る。だが、その前で留まれたかもしれない。文中に出てくる岩渕さんは2008年に亡くなった。
立岩真也さんコメント 「全国障害者解放運動連絡会議(全障連)」も取り上げられている。その組織このごろあまりぱっとしない。だから知っておいたってよい。
私は人形じゃない 抵抗の証
三井絹子 / ライフステ−ションワンステップかたつむり
2006/05出版
ISBN : 9784787300461
¥2,100 (税込)
立岩真也さんコメント 1970年、都知事が「ああいう人ってのは人格あるのかね」と語った府中療育センターで、日本で初めて「脱施設」につながる動きを始め、国立に移り、暮らしてきたのが著者(旧姓:新田)。
立岩真也さんコメント ちかごろはすこしメジャーになったALS。なおるかもというニュースもあったりだが、もうすこし待たねばならないだろう。という人たちが、ともかく生きてきた。
母よ!殺すな
横塚晃一 / 生活書院
2007/09出版
ISBN : 9784903690148
¥2,625 (税込)
立岩真也さんコメント 1975初版、81年増補改訂版。2007年復刊。著者は「青い芝の会」という小さな組織に関わり、78年に、42歳で、たぶん死なずにすむこともできたがんで亡くなった。20世紀の名著。
立岩真也さんコメント ものの感じ方がもともと違う、ことを否定するというのはなにか押しつけがましくもある。すると「処遇」はとても難しい。が、そうでもないかもしれない。そんなことを思う。
立岩真也さんコメント 専門家はたいがい自分を肯定するために「学」を発達させるのだが、ソーシャルワークという仕事は少しひねくれている。だが仕事をやめるわけにもいかない。何が起こるか。
立岩真也さんコメント この本はどのぐらい読まれたのだろうか。読まれたらよいと思う。私はこのように書かないのか、書けないのか、よくわからない。
立岩真也さんコメント 「自立障害者集団友人組織関西グループゴリラ連合会」という、ありえない名前の組織が一時期あり、様々なすったもんだがあり、くだらないと思われてけっこう、の記録。
立岩真也さんコメント 足が動かなければ足の代わりになるものがあればいいだけの話だ。しかし、この本に出てくる人たちの「支援」とはどんなことか。
立岩真也さんコメント こちらは身体系の人たちなので、比べれば簡単そうに思える。しかしそうでもない。例えば身体と身体とが普通なら異常に接近してしまうわけだ。するとどうなるか。
立岩真也さんコメント 新田と三井は兄妹で、同じ施設に入り抗議し、出て、新田は北区で、行政とかけあい撮れるものを取ってた。もう40年になる。そうしてなんとか暮らせるようになった人たちが出てきたのだ。
立岩真也さんコメント 1980年代、兵庫青い芝の会の脳性まひ者たちの介助(介護)に関わることになった人が、そこのあくの強い人たちの、正しくもどたばたとした軌跡を本にした。
立岩真也さんコメント これは大阪の同じ名前の組織の誕生と活動と停滞といささかの転換とを追う。ちなみに『カニは横に歩く』は当時関西で撮られた映画。『母よ!殺すな』は神奈川で撮られた映画の題名でもある。
立岩真也さんコメント 米国で、6歳の重複障害の女の子に、両親の希望である生育を制限する医療介入が行なわれた。詳細に追って、論点を抽出する。学者はさぼっていてこんな本を書けない。
立岩真也さんコメント アフリカのこと、そこでのHIVエイズのことを、そしてそこの地の本人たちの動きがすくなくとも事態のいくらかを動かしてきた。アフリカ関係ない人もおもしろいです。
立岩真也さんコメント 大学院途中でやめて京都で介助者して稼いできた人が、自分のこと、自分の周りのこと、関西のこと、介助労働者のこと(彼は「かりん燈」というのもやっている)を書いた。
立岩真也さんコメント 勤め先の大学院にやってきた、かつて心肺停止となり、脳死と判断され、身体障害なんでもありの、1981年生まれの著者の「自伝」。現在は大学院生兼事業所経営。
「じんぶんや」とは?
こんにちは。じんぶんやです。
2004年9月、紀伊國屋書店新宿本店に「じんぶんや」という棚が生まれました。
「じんぶんや」アイデンティティ1
★ 月 が わ り の 選 者
「じんぶんや」に並ぶ本を選ぶのは、編集者、学者、評論家など、その月のテーマに精通したプロの本読みたちです。「世に溢れかえる書物の山から厳選した本を、お客様にお薦めできるようなコーナーを作ろう」と考えて立ち上げました。数多の本を読み込んだ選者たちのおすすめ本は、掛け値なしに「じんぶんや」推薦印つき。
「じんぶんや」アイデンティティ2
★ 月 が わ り の テ ー マ
人文科学およびその周辺の主題をふらふらと巡っています。ここまでのテーマは、子どもが大きくなったら読ませたい本、身体論、詩、女性学...など。人文科学って日々の生活から縁遠いことではなくて、生きていくのに案外役に立ったりするのです。
ご愛顧のほど、どうぞよろしくお願いします。
「じんぶんや」バックナンバー
こちらのページから今までの「じんぶんや」をご覧いただけます。
【じんぶんや第83講】立岩真也選「身体に良き本――主に運動の方面から」
場 所 紀伊國屋書店新宿本店 3Fカウンター前
会 期 2012年8月25日(土)~9月下旬
お問合せ 紀伊國屋書店新宿本店 03-3354-5703