10年以上前に《青いターバンの少女》として来日したフェルメールの珠玉の作品が再び日本にやってきました!
今回の特集では、読むと観たくなる、観るともっと読みたくなる、絵画と謎と本の幸福な橋渡しをいたします。
実際のところ、印象派よりも17世紀オランダの絵画の方が今の日本人の好みに合いそうです。暮らしの傍らにさりげなく置いて呼吸するように眺めていたい、そんなお気に入りの一枚を探しに行きましょう。曇天が多いオランダの風景画は、梅雨明けを待ち望む今の気分に合うかもしれません。
#01 フェルメール
Ⅰ ミステリアス・フェルメール
フェルメールは謎に包まれている、とよく言われます。
その生涯や絵画制作の記録が極めて少なく、残された絵画も30数点。
また世界中を驚愕させた盗難事件や贋作事件などのスキャンダルが謎をさらに深めます。
しかし、なににもましてミステリアスなのは―――
「――頭巾をずっと見ていると」、急いでことばを継いだ。「旦那様は頭巾を白く塗ったわけではなくて、青、紫、黄で描いたことがわかってくるの」
「でもお前、それは白の頭巾だと言ったろう」
「そう、そこが不思議なのよ。たくさんの色を使って塗っているのに、いざ絵を見ると、それは白としか思えない」
(シュヴァリエ『真珠の耳飾りの少女』より)
謎解きフェルメ−ル
小林頼子、朽木ゆり子 / 新潮社
2003/06出版
ISBN : 9784106021046
¥1,365 (税込)
フェルメールを「神話」から解き放ち、すべての作品を手放しに称賛することもやめる。
冷静なまなざしは寡作の画家が一枚一枚の絵に費やした時間、試行錯誤、工夫、挑戦の跡を明らかにし、市井に生きた画家フェルメールの傑出した能力を証明します。
カラー図版が豊富で、解説も大変に平易です。しかし分析は刺激的!
フェルメ−ル光の王国
福岡伸一 / 木楽舎
2011/08出版
ISBN : 9784863240407
¥2,310 (税込)
フェルメールのごく身近に顕微鏡の発明者レーウェンフックがいた、という推測は科学者・福岡伸一の心を躍らせる。デルフト、アムステルダム、ワシントン、パリ、ベルリン、ドレスデン・・・フェルメールが捉えた「光のつぶたち」を追いかける旅の道すがら心に浮かぶままに随想する――芸術のこと、科学のこと、人生のこと。
美しい風景の写真、フェルメール作品のカラー図版多数。
巻頭の図版を観たとたん「どうしてこんな絵をフェルメールだと思ったの?」と驚くでしょう。「まるでフェルメールらしくない」と、当時だれもが感じていたのに「まるでフェルメールらしくない」が故に全世界が騙された。何故?
時代の趨勢、先入観、願望、権威への無抵抗、揺らぐ鑑識眼、狂う判断・・・自分は本当に自分の眼で「観ている」のか?自信が持てなくなってきます。
盗まれたフェルメ−ル
朽木ゆり子 / 新潮社
2000/03出版
ISBN : 9784106005855
¥1,365 (税込)
12年前、ボストンのガードナー美術館から忽然と消えたまま、未だに行方が分からないフェルメールの《合奏》。再び人々の前に姿を現す日は来るのか?世界の美術品盗難事件を追うノンフィクション。
Ⅱ ヴァリエーション
デッサンや制作メモなどがほとんど残っていないため、美術史家は苦労していますが、
小説家が自由に想像力の翼を広げるには好都合だったようです。
同じ絵が、それぞれの小説の中でどう語られるのか、読み比べてみてください。
運河沿いのフェルメ−ルの家
イングリット・メラ−、鈴木芳子 / エディションq
1999/02出版
ISBN : 9784874176108
¥3,360 (税込)
フェルメールの妻カタリーナが同時代の画家ピーテル・デ・ホーホの家の中庭を訪れる場面はまさに、17世紀のオランダ絵画そのままの静かな美しさに満ちています。この場面でカタリーナが感嘆の声をあげたピーテル・デ・ホーホの《デルフトの中庭》が今東京に来ています。
作品の世界観は全くフェルメール的ではありません。主人公が、表紙にもなっている赤い帽子の女に恐ろしく似ている、らしい、というなんともシュールな物語。この狐につままれたような不思議な感じはちょっとご説明できません。でも「フェルメール」であることが実に効果的なのです。
真珠の耳飾りの少女
トレイシ−・シュヴァリエ、木下哲夫 / 白水社
2004/04出版
ISBN : 9784560071465
¥998 (税込)
肩越しに振り返った、貴女は誰?―――
著者シュヴァリエの、フェルメール作品に対する深い愛情と洞察が、愛らしく美しい物語を生みました。物語を読む前と後では、少女の瞳に宿る光が全く違って見えることでしょう。
真珠の耳飾りの少女(DVD)
販売価格:¥3,591 (税込) [価格:¥3,990 (税込)]
JANコード:4935228033263 発売日:2005/01/14
全てのシーンが息をのむ様な美しさ。映画がフェルメールの光を再現しようと全力で挑んでいるのですから。何度でも観たくなる作品ですが、原作を読んだ後にも観てほしい。流れていく映像の中に描きこまれたさまざまなディティールに目を凝らしてください。
#02 光はどこから ―――絵画の謎を楽しむ
ルネサンス期の油彩画の発展は闇に差す光、闇を照らす光の豊かで繊細な表現を可能にしました。16世紀から17世紀にかけて、実に多くの"夜景画"の名作が生み出されています。闇と光の対比を活かしきってドラマティックな世界を作り上げたカラヴァッジョを経て、白昼の光が穏やかに満ちるフェルメールの表現に昇華するまで。
この特集でもご紹介しているカラヴァッジョ、ラ・トゥールの作品に興味を持たれた読者にも面白い切り口の入門書としておすすめです。
レオナルド・ダ・ヴィンチ――怪物。《モナ・リザ》という窓を通してレオナルドの内にある深い深い暗黒の淵を垣間見たようで背筋が凍りました。怪物の哀しみ――哀しいということに、レオナルド自身は気付いていたのだろうか。
第2章ではフェルメール《デルフトの眺望》の迷宮を歩きます。
消えたカラヴァッジョ
ジョナサン・ハ−、田中靖 / 岩波書店
2007/12出版
ISBN : 9784000225649
¥2,310 (税込)
天才、カリスマ――カラヴァッジョの絵の前に立った者は、その圧倒的なパワーにのまれ、熱病のような「カラヴァッジョ病」に罹る者さえ現れる。
失われた名画を探し求める知の冒険。アイルランドの片田舎で変色したワニスと埃の下から鮮やかなカラヴァッジョの真筆が甦るまでの興奮!
#03 絵画ミステリー小説を楽しむ
『楽園のカンヴァス』に『マルセル』。2012年は日本の小説家による絵画ミステリの当たり年です。
この他に、絶対外さない上質の絵画ミステリを4点ご紹介します。
楽園のカンヴァス
原田マハ / 新潮社
2012/01出版
ISBN : 9784103317517
¥1,680 (税込)
Belle Époque、古き良き時代。ルソーとピカソが生きた時代。
貧しさ、苦悩、焦燥、野心、情熱、夢に見た楽園。
パリの貧しいアトリエに足を踏み入れれば、迫りくる多様な緑色の洪水。気弱な老画家。
この物語の主人公・二人のキュレーターは、絵画への愛情ゆえに時代の空気をその身に感じ取り、時に感極まって涙を流す。自分の「目」と「心」だけを信じた真贋鑑定はどのような結論を導くのか?
マルセル
高樹のぶ子 / 毎日新聞社
2012/03出版
ISBN : 9784620107776
¥1,995 (税込)
読書中何度も本を閉じて表紙のマルセルの横顔を確認する。観るたびにマルセルの表情が変わっている。「マルセルが作中の誰に似ているか」という自分の印象も変わっている。
画家が描きたかったものは全て描かれて目の前にあるというのに、肝心なことがわからない。
謎を生み出すのは、描かれたマルセルではなく、生きている人間たち。真実を隠すのも、謎を解き明かすのも生きている人間たち。
大絵画展
望月諒子 / 光文社
2011/02出版
ISBN : 9784334927462
¥1,785 (税込)
画壇の闇の部分、美術品マーケットの汚い部分を覗き見て、暗澹たる気持ちになりますが、犯行の夜が明けるシーンでは思わず破顔するでしょう。
驚きの波はまだまだ来ます。最後の最後まで、油断しないでくださいね。
いかさま師
柳原慧 / 宝島社
2007/07出版
ISBN : 9784796659345
¥700 (税込)
見てくださいこのずるそうな目つき。これ、ラ・トゥールの作品です。そう、清らかな灯火で聖家族や聖人の顔を照らし出した、あのラ・トゥールです。表と裏、夜の光と昼の闇。これがテーマです。表題になっている「いかさま師」とは、登場人物のうち、誰のことだと思いますか?いえいえ、一筋縄ではいきませんよ。
時を巡る肖像
柄刀一 / 実業之日本社
2010/12出版
ISBN : 9784408550220
¥680 (税込)
画家のひと筆、絵具の一片に隠された秘密を、絵画修復士の鍛え抜かれた鑑識眼は見逃さない。
この特集の選書を通じて思いがけず極上の美術ミステリに出会うことができ、幸運でした。フェルメール作品をモチーフにした「遺影、『デルフトの眺望』」を収録。
ギャラリ−フェイク
細野不二彦 / 小学館
2002/12出版
ISBN : 9784091926616
¥610 (税込)
今更ご紹介するまでもなく大人気を博している『ギャラリーフェイク』シリーズです。古今東西の美術品を題材に、スリリングで痛快な謎解きが展開されます。『真珠の耳飾りの少女』にまつわる「ターバンの女」収録。
さて、本屋の絵画ミステリ・コレクションの中に掘り出し物はございましたか?
本棚から美術館へ。何冊か読んだ後では、壁に架かった絵画が以前と違ったふうに見えるかもしれません。
(編集部 藤崎)